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だが、そんな二人の賛辞にもどこ吹く風の繚先輩は険しい顔で周りを見回している。
考えてみりゃ、ここは戦場なんだよなぁ…まだ残った敵を警戒して当然か。
記憶を消される前にぶった斬られそう…雅哉は冷や汗をかいた。
「まったく、おかしな話だ。」
ひと通り辺りを見回すと、繚先輩は不満そうに呟いた。
異能デバイス持ちとはいえ、一般人の雅哉には気づかなかったらしい。
そこからの気配は内容にもよるが、今は強い気配を出してない。
そこらの空気の流れに混じるだろう。
「どうしたんですか?」
少女が質問する。
「ナビを寄越さない討伐案件が増えた。
状況確認も難しくなるし、明らかにおかしな話だろ。」
繚先輩はいぶかしむ。
異能機関のメンバーは魔物の出現が確認されると、基本的に討伐隊である実行部隊と状況確認と戦術指令を出すナビが同時に出動する。
ナビがいれば戦場の状況が一発で分かるので動きやすいのだ…巻き込まれた一般人の誘導もしやすい。
リーヴルはそこにも目をつけた。
状況を混沌とさせるためにナビを封じて目潰しをかけ、相手を弱らせてから潰すという手口もまたよく使う。
ナビを減らす実行犯は、エサで釣った組織内部の誰ぞ…一般人の救助がたくさん失敗すれば組織を運営するために必要なパトロンとの確執も生まれるし運営理念も潰れて士気が下がるからな。
どの手口にしろだいたいは搦め手を潰して、敵の戦術と可能性を減らす…何だかいろいろやっている人である。
だからこそ、雅哉もそこに売り込む価値があるんだが…相当危ない橋だよね。
しかも、無断だし…事後承諾だし…状況が状況だから仕方ないよね。
(けっこう頭が回るなぁ…萌花先輩の監視役だからそれぐらい出来て当然か。)
雅哉はこれから自分がやろうとしていることに、冷や汗をたらす。
しかし、一般人の自分が異能の中に切り込むには隠れてスキをつくしかない。
(先輩…申し訳ありません。)
心の中で謝罪しながら、雅哉はゴミ箱の中から組織への不信と不満を抱えながら去っていく3人の声を見送った。
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