理想が壊れる時

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「リーヴルが町を封鎖? 正気か、それ?」 甜瓜替市の外のある建物の中から、スーツをだらしなく着崩したボサボサ頭の男が目を丸くして電話越しに声を聞いていた。 相羽宰(あいばつかさ)…国の異能機関に何かのコネがあるらしいリーヴルと同じ異界出身の異能だが、詳しいことは本人がはぐらかして不明である。 もちろん、この名前も姿も本名ではないし実際の姿ではない…ただ、リーヴルとは違って自分が気にいった姿と名前なのでめったに変えることはしないのだが。 「ンなわけねぇだろ…そんなことをしたら絶対俺にバレるだろうが。 腐れ縁にジャマされるリスクを背負ってまでやろうとしていることが、そこにはあるのかよ?」 古い付き合いだから、互いに手口はあらかた知っている。 『さぁ、しかしリーヴルの目的ならおそらく十中八九甜瓜替市のヌシを戦力として引き込むことでしょう。 しかし、甜瓜替市の懇堅祈塞(こんけんきさい)はもともと当時の戦いにて後の甜瓜替市の人間になる祖が作った砦が万物の祈りによって神に転じたヌシ。 守りには強いですが攻める火力も弱く、また梨理(なしことわり)市のヌシである千手策誠架(せんじゅさくせいか)との因縁もありますからなかなか動きません…無理して叩き起こす価値がありますか?』 600年前にこの世界で起こった人間も獣も魔物も異世界の人間までもあらゆる存在を巻き込んだ、神々同士の縄張り争い。 今でも生きている彼らを、リーヴルが使わないはずがない。 搦め手が好きなリーヴルなら頭が切れる千手策誠架を狙いそうなもんだが、そいつの宿敵にしつこくこだわった。 外堀を埋めるつもりかもしれないが、そのわりには町を封鎖するし縄張り争いに負けて引きこもっている者に落ちるまでしつこく迫るなどやたら執着する。 何か、日本中の守り神事情がきな臭い。 大盟約はリーヴルや宰などがやってきた頃から大抵崩壊している。 まぁ、本気でドンパチするような血気盛んな神はいるにはいるが…少ないかな。 「絶対ねぇな。」 宰はダルそうに決意する。 「むしろ、面白いことになりそうだ。 リーヴルすらも弄ぶ奴もいそうでな。」 自分に自信のある奴は、あまり手口を変えない。 リーヴルの手口の変化から、きな臭い空気を感じると楽しくなってくる宰。 「まさか、そんな人間がいるんですか?」 リーヴルの恐ろしさを知っている電話の人物は信じられないようだ。 だが、宰はニヤニヤと微笑むだけ。 「さぁな。 だが、楽しそうだ。」 その瞳は、ほのかに子供のような喜びを称えている。 宰は連絡を切り、甜瓜替市に向けて歩きだした。
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