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「…ふぅ。」
セーオットこと、天追雅哉(あまおいまさや)は自宅のPCに届いたメールにひと通り目を通してひと息ついた。
(地鳴りが聞こえる…無茶しすぎたかな?)
亜麻色の髪の毛を耳の下で綺麗に切り揃えた、薄い空色の瞳を柔らかに称えた傷だらけの肌で儚げで優しい印象の高校生。
甜瓜替市の幅(ふく)高校に通う、普通の2年生だ…ただ、人付き合いが苦手でネットを漁っていたらオカルトサイトの人間と関わりを持ってしまい…そのオカルトサイトが情報隠匿のためにとある異能の手入れを受けてしまった。
その時、雅哉を含むサイトの人間はその異能に『買われた』…保護を受ける代わりに自由気ままにやっていた彼らは異能の意向を受けた情報統制サイトに変わったのである。
メジロと友の会さんとはネット上での付き合いだが、相変わらず言葉が重い。
現在、この甜瓜替市はリーヴルという異能力者の犯罪者による結界の中に閉じ込められている。
雅哉はあるネット上でのコミュニティの中である異能力者の加護を受けて外の仲間とのネット通信が出来るのだが、通常は外界との情報の遮断および出入りも不可能という悲惨な状況で…彼はその利を活かして町の人間を救おうとしていた。
とはいえ、状況は最悪極まりない…脱出の方法も外部とのコミュニティとの状況交換で実はルートを含めて解析済み。
雅哉が上からの馬鹿極まりない命令をきちんとこなせば、この町は脱出どころか救われる。
馬鹿極まりない命令とは、雅哉の上司の因縁相手に対する交渉としての名代。
一般人が異能に対して潰される覚悟で因縁を仲裁し、相手とのコネを作って来いという命令である。
今回の地震もその因縁だ…この町の異能が雅哉の後ろにいる主の気配を嗅ぎ付けて怒りを高めている。
それなのにチカラの番人を気取る異能機関は閉鎖的コミュニティで、コネを作ろうにもツテがないととりつくしまもなく…だいたい近づくことも出来ないのだが…そのツテすらなかなか出そうとしない。
このままじゃ共倒れなのだが、戦士である彼らはそれこそどうでもいい話らしい…町の人間は戦士ですらないのにだ。
とりあえず、17の2学期の初頭…残暑が和らいだ時期に『リーヴル』による町の閉鎖が始まった。
リーヴルとは、数年前に葡萄酒橋(ぶどうしゅばし)市が異界と繋がった時に外の世界から侵略してきた異能犯罪者の一人だ。
心理戦と情報網に長け、まるで物語を紡ぐように多くの異能力者を自分のもとに引き込み敵を弱体化させる戦術を使う。
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