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「…本当に殺されるかと思いましたよ。」
数日後、顔に青い痣をつけた雅哉はあの時もらった宰の電話番号を通して甜瓜替市の状況を説明する。
『この町の組織もバラバラにならないように、ガキの大嘘に擦り合わせるのは大変だっただろ。
リーヴルは退かしたんだから、それくらい責任取れ。
まぁ、お前の嘘で生まれた修羅場は見事だったがな。』
宰は相変わらず、人を食ったような態度で答える。
「はは、萌花先輩も勢いがありますからねぇ。
秘密はありますから誤解は解けないとは思いますが、彼氏彼女の距離は縮まったかもしれません。」
『違ぇねぇ。』
詳細は恐ろしくて聞けなかったが、萌花先輩と繚先輩の痴話ゲンカはなかなかに激しかったらしい。
いつの間にか巻き込まれた部下の二人もカップルだったらしく、そちらの方でも話はこじれたようだ。
んで、踊らされたと判明してからは4人まとめてこちらに集中放火…事情を理解してもらえるまで丸1日説明しっ放しだ。
バイトのお給料の1ヶ月分カットと、組織への加入および情報の提供で済んだのは奇跡だろう。
バックに千手策聖架がいることが幸いしたともいえる…だが、同盟の方はやってしまったことからして芳しくない。
もちろん、雅哉が盗んだ繚先輩のIDは削除した…けれど謁見なんかそうそう叶うはずもなく交渉自体は難航しそうである。
本当なら長期戦でも腰を据えて少しずつ距離を縮めるのが良いだろうが、今は非常事態だ…宰にはこっちの方も何とかしてもらいたい。
「僕はこんな『穏便』な性格ですから、嘘でも二人に幸せになって欲しいところはあるんです。」
雅哉は自嘲的に重い口を開く。
「僕は誰にも愛されず、また自分からも誰も愛さない性格です。
平穏で波風が立たず、穏やかな世界がずっと続けば良いなと考え…そのためにはたくさんのものを自分から放り出す人間です。
だから、誰かを愛してもいつか自分の信念から放り出す時が来る。
その悲しみを、背負わせるつもりなんか始めからありませんからね…だから始めから誰も求めない。
だけど、先輩たちは未来に手を繋ぐことが出来るじゃないですか。
せめて、その幸せを胸に焼き付けるだけで僕は幸せです。」
無私の深い愛は、きっと幸せを願う者を祝福しているから。
自分ではないすべての者に喜びを託し、願い、尽くす。
きっとそれだけを求めて生きていたのだろう。
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