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初めて貴方と出会ったのは、流行りの曲が流れる人気の居酒屋だった。
社会人として自立してひとり暮らしも慣れてきた頃の、同期から誘われた人数合わせの合コン。
最初は断っていたけど、何度も繰り返される同期からのお願い攻撃と食事代を奢るという条件で参加して貴方に出会った。
『君、面倒見がいいんだね』
空になったグラスを手に取りながら、メニュー表を渡すとそう微笑まれて、思わず返した言葉は「そうでもないですよ」とかいう適当なものだったはず。
貴方はニコリと笑って「俺、そういう子好き」って言っていたっけ。
直接的な好意を向けられたことに戸惑って、あ……ありがとう、なんて柄にもなく戸惑ってしまった。
言葉の上手い貴方に流されるまま、SNSのアカウントやメッセージアプリの交換をしたね。
あまり男性と関りがない人生を歩んできた私にとって、貴方の行動すべてが新鮮でドキドキしてしまっていたのを覚えているよ。
初めてのデートは水族館。
私は柄にもなくはしゃいでしまって、水槽の中を泳ぐ魚たちを指さしながら、あれはなんだろう、これはなんだろう、なんて話しかけていたね。
イルカショーも一緒に見て、水浸しになる人たちを見て一緒に笑ったっけ。
「今度はもっと近いところで見よう」って言って。
そうやって月日を重ねて、付き合おうって言ってくれたのは貴方からだったね。
私には勇気がなくて、貴方からきっかけをくれたこと本当に嬉しかった。
泣いて頷く私を優しく抱きしめてくれた。
その時の貴方の様子に、私はもっと早く気付くべきだったと今では思うよ。
どこか疲れた様子の貴方に、当時の私は仕事が忙しいのだろうと勝手に決めつけていた。
付き合いだして半年くらいだったっけ。
貴方は良く私の家に泊まり込むようになって、そのまま仕事へ行って夜には私の部屋へと帰ってくることが増えたね。
家賃ももったいないから同棲しようって話が出た時、少しだけ貴方は悩む素振りを見せたね。
あの時はどうしてかわからなかったけれど、今ならその理由がわかるよ。
一緒に暮らし始めて、喧嘩もしたけれど順調にやっていけてるって私は思ったんだ。
貴方は人付き合いがいいから、飲み会に行って朝に帰ってきたりもよくあったね。
断り切れなくてごめんって、何度も謝ってくれたね。
そのたびに私は笑って答えたんだ。「人付き合いなんだし、気にしないで」って。
その頃から、ズレていってしまったのかもしれないね。
少しずつ、会話が減っていった。
一緒に暮らしだして4年も経っていたし、お互いに気を許しているからそうなっているんだって思っていたよ。
貴方がスマホを見つめている時間が増えて、私の話す言葉に生返事を返すことが増えて……さすがに私もバカじゃないからさ、疑ったりもしたよ。
それでも私は貴女のこと好きだったから、彼女は私なんだって言い聞かせてさ、貴方の事だけを見つめていたよ。
親に結婚はまだかって急かされても、貴方はその話題になると嫌がったから黙ってた。
友人に「絶対に浮気してる」って言われても、大丈夫だなんって虚勢をはったよ。
貴方に嫌われないように、もっと好きになってもらえるように、貴方が好きだって言ってたから髪も伸ばして、貴方が好きだって言ってた料理ばかり作るようにして、貴方が嫌いって言っていたことは一切耳に入れないようにして。
そうやって頑張っていたら、いつもみたいに貴方は頭を撫でて「好き」って言ってれると思ってたんだ。
そう……思ってたんだ。
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