私が私を殺した日

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ざぶりざぶりと水を掻き分けて足を進める。 手に持ったままだった鎌に、トートバッグから取り出したカバーを付け直してバッグにしまった。 波間を抜けて湿った砂だけが足の裏へと張り付く。 ボタボタと海水を垂らすズボンの裾を軽く絞ってから、足の裏の砂を手で払い落とした。 湿ったままの足に靴下と靴を履く。 財布を入れていた鞄を肩からかけて、中からスマホを取り出して電話帳から友人の名前をタップした。 数回のコールの後、聴きなれた陽気な声が耳に届く。 「あ、せっちん?  ちょっと頼みたいことあってさ」 会話をしながら足を進める。 波打ち際が遠くなっていく。 「ちょっとさ、今日泊めてくれない?」 少しの無音の後、了承の言葉が返ってくる。 宿代は酒とつまみね! なんて明るく言ってくれるあたり、根掘り葉掘り聞かれるんだろうな〜と苦笑してしまった。 察しがいい長年の友人はいつも私を支えてくれて、その隣は酷く居心地がいい。 「あとカットモデル探してる友達いるって言ってたじゃん?  受けてみたいなーって思ってるんだけど〜」 はいはい、て笑いながら答えてくれる友人に大好きって伝えれば、早くうちにこい! なんて急かされてしまった。 「はぁ〜い! じゃぁまた後でね!」 ぷつりと通話を切ってSNSを起動する。 『今日はせっちんのところにお泊まり!』と投稿してから、スマホを鞄へしまった。 これで私が外泊することはあの人には伝わるから、直接連絡しなくていい。 メッセージアプリに貴方から連絡の通知があったけれど、今は見る気分じゃないので放置を決めた。 お気に入りの歌を口ずさみながら近くのバス停へ向かう。 誰もいないし近くに家もないからやりたい放題。 バカでかい声で歌う、今はそんな気分だ。 あの長ったらしい髪を切り落としたおかげで首元が涼しい、頭も軽くなった気がする。 毛先を指で弄んで、どんな色に変えてやろうかと考えを巡らせる。  新しい私  私は私の好きなように生きていく。  貴方好みの女はもういない。 貴方のことを大好きな私は、新しい私が海へ流して《ころして》しまったから。 ー終ー ーーーーーーーー 次ページはどうでもいい作者からのコメント
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