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「これじゃまるで、患者の弱みにつけ込むワイセツ医師じゃないですか」
「大丈夫です」
花梨は薄く微笑みかけた。
「私も、お医者さんの弱みにつけ込む悪い患者ですから」
互いに見つめ合いながら、一緒に笑った。花梨は軽くウェーブがかったモサモサの髪ごと、慎の頬に触れた。その手に導かれるようにして、真上にある顔がゆっくりと降りてくる。花梨が目を閉じたのと同時に、重なり合った慎の唇から優しい温もりが伝わってきた。
蝶が花弁にとまるような、柔らかく穏やかな口づけ。頬骨に眼鏡のふちがコツコツ当たる。どこか遠慮がちで、少し物足りない唇が、離れては重なり、重なっては離れてゆく。
「花梨さん……」
慎の喘ぐような声が鼓膜を撫でた。甘やかな吐息が脳髄に響き、体を甘く痺れさせる。花梨はしがみつくように慎を抱きしめた。欲情という感覚を初めて知った気がする。下腹部の奥がむず痒くてすごく熱い。自然と呼吸が荒くなり、優し過ぎる慎の唇にもっと自分を欲してもらいたくなる。
「ハァっ……先生っ……!」
その一言で、聡い相手は望みを悟ったようだった。熱く湿った唇がそっと首筋に下りてくる。全身の産毛が逆立った。一体、自分の体はどうしちゃったんだろう。花梨は慎の肩に顔を埋めながら、暴走している自身に戸惑った。胸の先が痛痒い。まだ触れられてもいないのに、首筋を這う慎の唇の感触だけで両胸が硬くしこり、熱を帯びて膨らんでいる。
「花梨さん……もう少し体、楽にできますか?」
耳元の囁きに、花梨は首を横に振った。唇をキュっと噛んで声を押し殺したまま、慎に抱きついていた。ちょっとでも気を緩めたら、とんでもない痴態をさらしそうで怖かった。
慎がそっと背中に手を回してくる。優しく撫でる手が背筋をなぞるように下がり、太ももの付け根からTシャツの中に入ってきた。
「んふっ……!」
体がビクっと跳ねた。花梨は咄嗟に脇腹から上がってくる手を押し止めようとしたが、その時には既にTシャツは鎖骨の辺りまで捲り上げられ、ふくよかな胸がライトの淡い明かりにさらされていた。
「綺麗な肌……」
「やっ、見ないでっ……!」
慌てて隠そうとしたけれど、一瞬早く、慎に手首を掴まれてしまった。そのままゆっくりと、シーツの上に伏せられる。両方の手を上から押さえ込まれ、全く身動きが取れない。
「どうして隠そうとするんですか? こんなにキレイなのに」
羞恥と期待と戸惑いで、花梨は打ち震えた。
「先生っ、恥ずかしいですっ。せめてライト消して下さいっ」
「消したらこの綺麗な肌も、花梨さんの顔も、何も見えなくなるじゃありませんか。それじゃ困ります。僕はもっと、花梨さんを見ていたいんですから」
ライトの明りはどこか頼りなげだが、それでもさらけ出された二つの胸の膨らみは明瞭に映し出している。花梨は自分の体の貪欲さに困惑した。慎の視線に体がしっかり応えていた。健悟の時はこんなふうにはならなかった。常に自分本位でしたい時だけ触り、独り善がりに気持ち良くなって終わる健悟との行為に快楽なんて感じたことはない。
それが今は、見られているだけでこれ以上ない程に興奮していた。視線だけで欲情している自分に、花梨自身が驚いた。しかしそんな未知の驚きも一瞬で払われた。慎が硬くなった胸の先へ唇を落としたからだ。
「いっぱい気持ち良くなって下さいね」
「ひゃっ!?」
強烈な感覚に体がのけ反った。興奮で艶やかに膨らんだ乳輪ごと、慎が口に含んだのだ。鋭い快感だった。思わず花梨は悲鳴を上げた。慎の柔らかな唇が、熟れた果実を食むように優しく胸の先をついばんでくる。
「ああっ……ふぅっ、んあっ……!」
めまいがした。頭をゆっくりと回されているような感覚が、羞恥心を鈍らせる。潤んだ視界に広がる淫らな光景。黄色味がかったライトの淡い光に、唾液で濡れた胸の先がてらてらと輝いていた。形のいい慎の唇が力強く先端を摘まみ、舌先でねっとりと転がしている。たまらず、花梨は体をくの字に曲げた。けれど、ベットに上がってきた慎の体躯にあっけなく押し戻される。
「ぃやっ……ハァっ、ちょっと先生っ」
「痛かったですか?」
「あぅっ、はぁっ、ああっ……」
「もう少し体の力抜けます?」
「あっ……んんっ、ムリィ……!」
「困ったな」
胸の上でクスリと笑いながら、慎は手首を掴んでいた手をそっと腰へと滑らせた。肌触りを確かめるみたいに腰回りを撫でつつ、徐々に脇腹へ、脇腹から腿へ、その内側へと滑り落ちてくる。
「じゃあ、深呼吸して下さい」
「ぅんっ……はあっ」
花梨は頭を振った。深呼吸どころじゃない。息すらままならないのに。内腿を、痺れるような快感がくすぐってくる。花梨は無意識に両足を閉じて、慎の手がそれ以上深い所をあばかないように押し止めていた。下腹部の奥がジンジンと熱い。内膜で脈打つ熱い痺れが、下半身を震わせる。だが必死の抵抗も、胸を強く吸われた瞬間に砕けて消えた。
「ひあっ」
まるで体が自我に目覚め、脳の指令を無視して暴走しているような感覚だった。敏感な胸を優しく、時々いじわるに唇と舌で責められて、注ぎ込まれる快感に体が反応していた。花梨の意志とは無関係に慎の愛情を欲し、従順に動いてしまう。
下着を脱がせやすいよう勝手に腰が浮き、きつく閉じていた肢から力が抜けていく。内腿を撫でていた慎の手が、ゆっくりと中心に近づいてくる。胸の先からは甘い痺れが下腹部まで広がり、慎の優しい指が中心に触れた時には十分過ぎる程に潤っていた。
「んあっ、やぁっ、待ってっ、先生っ……!」
「待てません」
「ダメっ、あ、あ、触っちゃっ……」
「こんなに可愛い姿を見せられて、我慢できるわけがないでしょう……それに……」
「ああっ、指っ、入ってっ……!」
「我慢しなくていいと言ったのは、花梨さんじゃありませんか」
「はぅっ」
ぬるりと侵入してきた快感に、花梨は背中を大きく反らせた。
「あぁぁああっ――!」
胸の突起に触れていた慎の唇が、首筋を這って耳まで上がってくる。何度も耳朶を食みながら、鼓膜に熱くて甘い吐息を吹きかけてきた。
「女性の体は、とても柔軟にできているんですよ」
リズミカルな快感が腹部を突く。優し過ぎるほどゆったりと、慎の長い指が体内の柔らかな壁を擦るたび、内腿が痙攣するように震えた。下腹部の奥が収縮して、指を引き込んでいく。動きに合わせて勝手に腰が揺れた。淫らな自身の暴走を止める術もなく、花梨は呼吸を乱しながら慎にしがみ付いた。
「ああっ、やっ、あぅっ、んぅっ」
「こうやって粘液があふれるのも、最良の状態で受精しようとしているからなんです。女性の体って、とてもいじらしいですよね」
慎の指に絡まる粘液が、両ももの間から漏れているのが自分でもわかる。抜き差しされる摩擦で体の奥が熱く火照り、そこから甘美な痺れが脊髄をせり上がってきた。もう抵抗さえできない。鼓膜に雪崩れ込む慎の息も、内壁を擦る指の動きも、卑猥な水音も、全てが狂おしい程に気持ちがいい。
「ハァっ、ひぁっ、ああぁっ」
「産道にもたくさん気持ちのいい所があるんですよ……例えばこことか……」
「あうっ、やめっ……ああっ、ああっ」
「ここも……ほら、この辺りも……」
「やぁっ、あぅっ、んぅっ、んあぁあっ」
「産みの苦しみに耐えられるように、たくさん性感帯があるんです。特にここは、最も感じやすい所なんですよ」
内壁と擦っていた慎の指が恥骨を突くように折れ曲がった瞬間、戦慄する程の鋭利な快感が脳を貫いた。
「あくぅっ!?」
花梨は息を噛み砕いた。この感覚はなに!? 尿意にも似た激しい痺れが一気に背筋を駆け抜けた。こんな感覚は初めてだ。体内がうねる感覚と、慎の指の動きが重なり合い、強烈な快感が体の奥で渦を巻いている。意識が遠のきそうになりながら、花梨はありったけの力を振るって訴えた。
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