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「んぅぅっ、先生っ、ハァっ、もぅダメぇっ……早くっ、来てっ」
耳朶を、慎の切なげな声が掠めた。
「僕はいいので、花梨さんは自分のことだけ考えて下さい」
「?」
しがみ付いたまま、花梨は視線を慎の頭に滑らせた。雰囲気で察したのだろう。そっと顔を上げた慎が、困ったように苦笑している。
「避妊具がないんですよ、そんな物を使う相手もいませんでしたからね。なので、今夜は花梨さんだけ……」
「だっ、だったら、なくてもいいからっ」
「それはダメです」
男なら誰もが喜ぶ申し出を、慎はきっぱりと断った。
「万が一の時、傷つくのは女性の方です。僕は花梨さんを傷つけたくない」
「でもっ、それじゃ先生がっ……」
「大丈夫です。花梨さんの声や可愛い反応を見ているだけで、十分に気持ちいいですから」
言葉で表し様のない充実感に、胸が潰されそうになった。愛しい思いで息が苦しくなる。花梨は涙目で慎を見返した。自分と同じ、いやそれ以上に慎の体が興奮していることぐらい気づいていた。だからこそ、恥を忍んで中へ招いたのだ。慎もそれを望んでいると思って。なのに、もしもの心配を理由に慎は誘いを辞退した。男にとってその誘惑を払い退けることがどれだけ苦しいか、花梨にも理解はできる。
全てはこちらの体を想ってくれたがゆえのこと。慎は自分の快楽を追及するより、相手を愛する方を選んでくれた。花梨は両腕で慎を抱きしめた。Yシャツから香る柔軟剤のいい香りと、抱きしめ返してくれる片腕の力強さがなおも体を熱くさせる。
「もぅっ、私っ、限界ですっ……先生っ……!」
フっと慎の小さな微笑が耳に触れた。
「かわいい……体が求めるままに、たくさん感じて下さい」
「ふあっ!」
またもさっきの箇所を指で疲れて、花梨は悲鳴を上げた。人体の構造を知り尽くした指は狭い内壁を優しく押し上げ、揉み込むような動きで強烈な快感を広げてゆく。耐えられなかった。意識が朦朧とする。快楽の作用か、それとも薬のせいか、視界が涙でかすみ、自分の恥ずかしい声が眠りの中に落ちていく。
「ハァっ、ああっ、やぁっ、そこぉっ……!」
「ここですか?」
「んぁああっ」
のけ反った花梨の口から、甲高い声があふれた。全身の神経に甘やかな痺れが走り、反射的に下肢が痙攣する。限界が近いことを悟った指はいっそう優しく、激しく揺れて、意識を高ぶらせてゆく。
「ハァ……花梨さん……!」
少し苦しげな慎の声が響いた。あふれる粘液で手が汚れるのもいとわず、慎が絶妙な力加減で快感の震源地を擦り上げてくる。昇り詰める得体の知れない未知の感覚に、花梨は踵でシーツを蹴りながら身悶えた。
「あぁあっ、ぅんッ、いやぁぁぁッ……!」
体の奥から灼熱が込み上げてきた。腹筋が激しく収縮して、飲み込むように中の指を強く締め付ける。慎の呼吸も乱れていた。熱を持った背中が強張り、耳朶に触れる吐息に切なげな響きが混じっている。指の動きが激しくなった。下肢がお湯に浸かったみたいに熱い。胸の先も、唇も、うごめく中も全身が火照って意識を溶かす。
「あぅんッ、やっ、あっ、ああッ、先生ぇッ」
「花梨さんっ……!」
ツンと刺すような熱い痺れが下腹部の奥で弾けた瞬間、
「ああぁぁああぁッ……!!」
体の奥から熱いうねりが押し寄せた。弓なりに反った背中が軋み、未だに激しく動く指の摩擦が強烈な快感を生み出している。花梨は遠退く意識の中で自分の嬌声を聞いた。もう頭がマヒして何も考えられない。途轍もない眠気が、意識を闇に引きずり込もうとしていた。もっと慎を感じていたい。声が聞きたい。慎の奥深い愛情に抱かれていたいのに、視界から光が消えてゆく。
「ハァ……ぁ……せ、先生……」
「……眠くなっちゃったかな」
クスっと柔らかい微笑が聞こえた。上から覗き込んできた慎の顔が、半透明のフィルターを被せたようにぼやけてゆく。快感の渦を起こしていた指の動きが止まり、じんわりと広がった甘い痺れが全身に溶け込んで、すぅっと体内に吸収されていくのを感じながら、花梨はそっと目を伏せた。
「……先生……」
「おやすみなさい、花梨さん……」
おでこにチュっと柔らかい感触が触れた。
温かいキスの記憶を最後に、意識が闇に落ちた。
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