68人が本棚に入れています
本棚に追加
5
泣き疲れて眠って(僕も相当女々しいな)、朝が来たらもう仕事の時間だ。
体には悪いけど、朝食を食べてる時間なんてない。
前日にコンビニで買ってあったサンドイッチとエネルギー飲料を無理矢理流し込む。
MRになってからまともな食事はほとんどとってない。
毎晩薬の勉強して、次に薬を売り込みに行く病院がどんな患者層を持っているか把握して、門前の薬局との関係性も重要だし……。
そんなことを考えていると平気で夜中の2時は回ってしまう。
でも何よりも、薬を取り扱っている人間がこんな朝食を食べてるってのは笑いものだ。
「おはようございます」
会社の人たちに次々と挨拶をして、今日回る病院や薬局を改めてチェックする。
今日は午前中に会議が1件と、午後にたんぽぽ薬局のアレルギーの新薬が1件。そんなに過密なスケジュールではない。
たんぽぽ薬局は門前の薬局ではないけれど、周りに複数の病院や総合病院が建っているから、結構いろんな病院の患者さんが来る薬局だ。
たんぽぽ薬局の1番近くの病院が橋本小児科だから、新しい薬を売り込みに行く時は、特に小児のアレルギー薬に力を入れている。
午前の会議が終わると、昼食を取ってすぐにたんぽぽ薬局へ向かう。
新薬の資料は昨日の夜泣きながらバッチリ揃えた。何を聞かれても答える自信はある。
車を走らせて30分で薬局に着いた。
「こんにちは。アース製薬の小林です」
すぐに薬局の奥から出てきてくれたのは人の良さそうな女性。
この薬局は家族経営で、お父さんとお母さん、そして息子さん。全員が薬剤師だ。
「新薬ですよね?アレルギーの」
「そうです、そうです。今大丈夫ですか?」
「今日は主人が他の病院さんのお医者様と他職種連携の話で居ないんです。息子が対応することになるので、今日決めれるかわからないんですけど……」
「全然大丈夫です。急がず決めてください」
「じゃあ、今息子の方呼んできますので。そちらに座ってお待ちください」
薬局の裏の事務室で、僕は出されたお茶をすする。
美味しい。特に昨日の夜死ぬほど泣いた僕にとって、この温かいお茶のホッとする感は尋常ではない。
やばい、なんだか泣きたくなってきた。
ただでさえ昨日ので目が腫れてるってのに、ここで泣いたらとうとうヤバイぞ。
ポケットティッシュを取り出して涙を拭いて、鼻をかむ。
最初のコメントを投稿しよう!