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車のスピードが無意識に上がる。
公私混同はしない。それは自分の中で、孝司と付き合った時から決めていたことだった。
仕事先の人と付き合うこと自体が悪いことだとは思わない。けれど、その関係のせいで仕事に支障が出るのはNG。
僕の中ではそれが一つの基準で、ただでさえ自分はそんなハンデを背負っているんだから、人一倍患者さんにも会社にも貢献しなければいけない。その意識が強かった。
でも今、それでいいのかと悩んでいる。
昨日はあんなに啖呵切って別れる宣言をしてきたものの、MRとしての幸せと生活の幸せの境界線をはっきりさせたほうがいいんじゃないか。それならまた、孝司の元に戻ってもいいのでは……
そんな思考が頭をよぎるが、やはり孝司が遊び人なのに変わりはない。元鞘に出戻りしても、結果は見えている。
会社用のスマホが胸ポケットで震えた。
「ああ、小林くん?今大丈夫?」
会社の上司からだ。
「はい。ブルートゥースで繋げて喋ってるので」
「よかった。実はね、新薬のメガリトンなんだけれども、孝司先生が使いたいって直接電話があって」
「直接?」
医者が直接、製薬会社に電話?
何か不思議なものを感じた。
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