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「そうそう。今たんぽぽさんからの帰りでしょ。メガトロンの資料持ってたよね?そのまんま孝司先生の病院行って、薬紹介してもらいたいんだわ」
「は……はい。わかりました。すぐに向かいます」
通り過ぎようと思っていたコンビニの駐車場に車を乗り上げて、行き先を孝司の勤める赤坂病院のレーンに切り換えた。
「たんぽぽ薬局さんはどうかな。使ってくれそうだった?」
「ええ。橋本先生も導入をする予定だそうで、ほぼ本決まりと考えてていいと思います」
「そう。よかったです、よかった。じゃああとはよろしく頼んだよ。小林君は資料も説明もオリジナルだけどわかりやすいって評判だよ」
「ありがとうございます」
「いや、でもねぇ……うん。今年で最後ってのが、残念なくらいだ」
「…それは会社の決まりですから。残り時間に関係なく、結果は残します」
では、と言って電話は切れた。
MR……この会社を出たら、新しい職を探さなければいけない。
貯蓄はある。お金がないわけではない。
しかし自分には、明らかにもっと大事なものが欠損している気がした。
それはきっと、お金では交換できない何か……。
車の外の景色が赤坂病院に近づくと、僕はその思考をいつもの「クセ」で放棄した。
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