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ベビーカーを押して、家路につく。
西の空が、いつのまにか藍色に染まっている。
薄紙のような三日月に寄り添うように、一番星が、キラキラ光る。
「さくちゃんさあ。あの子のこと好きでしょう」
にやにやしながら、ユイが朔也を見上げてくる。
朔也は「さあね」と肩をすくめてごまかした。
玄関のドアを開けて、スニーカーをぬぐ。
姉も母も、もう家に帰ってきていた。
姉が、ミサを抱き上げて呑気に言う。
「おかえりなさい。どうだった? 『一日パパ』体験は?」
「ああ、そうだね……」
朔也はフウと息をついて、天井をあおいだ。
「世の中のお父さんは、みんな大変なんだなって思ったよ」
「いい予行演習になったでしょ。
うちのパパは、そのうえ外で働いてくるんだからね」
ユイがうなずく。
「そうそう。パパは偉いんだからね!」
ミサが、「きゃあっ」とはしゃいだ声をあげて笑いだした。
(おしまい)
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