一日パパ

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「は? ちょっと待ってくれよ……」 姉はもうミュールにつま先を突っ込んでいる。 「待ってってば……」 朔也は、呆然としながら姉の背中を見送った。 リビングに戻ると、ふたりの姪っ子がこっちを見ている。 上のユイは、小学二年。下のミサは、まだ生後六か月だ。 「ねえ、DVD観ていい?」 ユイに話しかけられて、朔也は「ああ」とうなずいた。 ユイは、姉のバックからDVDを取り出して、プレイヤーにセットしている。 すぐに「魔法少女なんとか」というアニメソングが流れ出す。 母さん、早く帰ってきてくれ。 朔也は、母に電話をしてみた。 コール音を十回数えたが、出ない。 ……このまま大人しくしててくれればいいけどさ。 朔也はそう思いつつ、やりかけの課題に目を戻した。 すると、五分もしないうちに、ミサがぎゃあぎゃあ泣き出した。 「なんだ。どうした?」 「おむつじゃない?」 ユイがそう言って、姉のバッグの中を探った。 紙おむつを取り出して「はい」と渡してくる。 朔也は紙おむつを手に、戸惑った。 パステルカラーのくまの絵に、「前」とだけ書いてある。 サイドをテープでとめる仕組みのようだ。 コンビニのおにぎりの要領で、おしりを包めばいいのだろうか。 ミサのムチムチした足を持ち上げてみる。 とりあえず、履いてあったものを脱がせようとすると、色がついて汚れている。 「わあ。うんちだ」 甘酸っぱいような、不思議なにおいがする。 「これで拭くんだよ」 おしりふきをユイに手渡される。 それでおしりの割れ目をふき、そそくさと新しいおむつを当てがって、適当にテープで留めた。 やれやれ。 ため息をついて、朔也はソファにもたれかかった。
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