一日パパ

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「おぎゃあ、おぎゃあ」 またミサが泣き出した。 「今度は何?」 「ミルクじゃない?」 ユイが、バッグから粉ミルクとほにゅうびんを探し出した。 「おお。サンキュー」 どうやってあげるのだろう。 粉ミルクの缶の後ろの文字を読んでみる。 「スプーンすりきり一杯を、出来上がり量20リットルの割合に溶かします」 台所に行って、電気ケトルで湯を沸かした。 これを、ほにゅうびんに入れればいいらしい。 缶の注意書きには、「乳首をしっかり取り付けて……」などと書いてある。 「ちくび……?」 いやいや、そういう意味じゃない。 朔也は頭を振り、粉ミルクにお湯を入れて、ほにゅうびんを上下に振った。 ミサの口に当てがおうとすると、 「ちゃんと冷ました? 70度だよ」 とユイが腰に手を当てて言う。 「そうか」 危ない。熱湯ミルクをやるところだった。 「大丈夫? さくちゃん。ユイがやるよ」 ユイが、朔也からほにゅうびんを奪い取った。 器用にミルクを飲ませると、ミサの背中をたたいて、ユイは首をかしげた。 「あれ、げっぷしないなあ」 「なに? げっぷ? 汚いなあ」 「なに言ってるの。ちゃんとげっぷさせないと、だめなんだよ。 ミルク吐いちゃったりするんだから」 「そうなんだ?」 「常識でしょ」 小馬鹿にしたように、朔也の顔を見あげながら、ユイはミサの背中をさすった。 「出ないね」 「ああ、もう。げっぷしてよう!」 ユイが、乱暴にばんばんミサの背中を叩く。 そんなに叩いていいのだろうか。 「ちょっと、大丈夫か?」 心配になって声をかけたとたん、「ごふっ」とミサがげっぷをした。 思いがけず、おっさんくさい。 朔也は、思わず笑ってしまった。 「あははは」 「さくちゃん、笑いすぎだよ」 そう言いつつ、ユイも笑っている。 よだれで光るミサの小さなくちびるを、朔也はテッシュで拭いてやる。 なんだか部屋中がミルクくさい。 朔也は、ほにゅうびんを流しに片付けて、リビングに戻った。
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