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零 一
「赤い流星の女」第三部 死闘編
零 一
街道を行く流浪の親子があった。
日の出と共に宿場町を出立した親子は街道沿いの脇道に逸れると、広大な樹海の中へと入っていった。
すでに日は高く、生い茂った木々の葉に日差しは遮られていたが、視界は十分だった。
地面には樹木の根が蛇のように這い回り、朽ち果てた巨木が折重なるように倒れていて、木肌や岩の表面を覆い尽くした苔が辺り一面を蒼く染めていた。
その深緑の中を、流浪者親子はさらに奥へと進んでいく。
父は紺色の羽織の下に焦げ茶色の胴着を着込み、首元には黄土色の襟巻き、腰の帯には反りのある細身の長剣を差していた。背中の背負い袋に寝袋が縛り付けてあり、ブリキのカップや水筒が掛け金で吊り下げられている。
日に焼けた浅黒い肌、黒色の眼孔。顎には無精髭を生やし、背中まで伸びた黒髪を後ろで縛り、その風貌は落ちぶれ果てた流浪の剣士にしか見えなかった。
娘は十歳を超えたあたりだろうか、面差しは父親に似ていたが、黄金色の髪の毛、瞳は海のように青い。
首から朱色の襟巻きをたらし、厚手の茶色い上着、背中に使い古した背負い袋、腰の帯には根付けのような木彫りの飾りが揺れていて、父親の剣と対になった反りのある小型の剣を差している。
その流浪者親子の跡を一定の距離をとりながら追いかけていく五名の集団がいた。巨木の陰に身を隠し、茂みの中を這うようにして移動しながら、つかず離れず親子の動向を覗っている。
いずれもベージュのロングコートと揃いのつば広の帽子をかぶり、揃いの黒い革手袋をして、腰のベルトには両刃の長剣を提げていた。闘いを意味するものなのか、目元には指でなぞったような赤や青の顔料が塗られている。
「ボーグ、いつまでこうしているつもりだ」
ひとりの剣士が焦れるように言った。年齢は二十代半ばか、まだ若く勝ち気な面構えの男だった。
「標的は目の前にいるのだぞ、時間をかければ相手に悟られる恐れがある、さっさとかたづけてしまおう」
「慌てるな、ゾーグ。相手は親父を斬ったほどの剣の使い手だ、用心に越したことはない」
三十を超えたあたりの頬に刃物傷のある男で、集団の中では年長者なのだろう、血気盛んな若者たちを諫めるように言った。
「兄貴は慎重すぎるのだ。警戒しすぎて逃げられたのでは元も子もないではないか」
「まあ待て、あの男の挙動が気に入らない。この先は延々と樹海が広がっているだけだ、いったい何の目的があって森に入ったのか」
ボーグは思案するように茂みの陰に身を隠した。後に続く四名の剣士たちも、頭を囲むようにして腰を下ろした。
「すでに男は俺たちに気づいているのかもしれん」
「だとしても、それがどうだというのだ。相手が人気のない森の中で俺たちを迎え撃つ気なら、こちらとしても好都合ではないか」
「だがしかし、賞金稼ぎとしての評判は侮れぬ。これまでに数々の剣豪と呼ばれる償金首を討伐してきた経歴は疑いようもない事実。相手の技量を見誤れば親父の二の舞になる」
ボーグの言葉に、剣士たちは表情を強張らせた。
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