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第二章 邪の道 二
二
はじめてひとを斬ったのは八歳の時だった。
立ち上る黒煙。入り乱れる悲鳴と怒号。血塗れの屍。あれから二十年近くの時が過ぎても、あの日の光景はいまでも鮮明に覚えている。
それは、とある国の山間にある集落での出来事だった。
カズマがその地を訪れたのは、ひとりの武芸者に会うことが目的だった。その昔、多節棍の使い手として諸国にもその名を知られた男だったが、十年前に消息を絶ったままその後の行方はわからなかった。
偶然にも、旅の途中で立ち寄った剣術道場の師範から男は出家して僧侶となり、現在は隣国の霊山の頂きにある寺院に身を寄せているのだと聞かされて、ひと目だけでも会ってみたいと思い立ったのだ。
もとより行く当てのない流浪者親子だった。
賞金稼ぎとして罪人の逮捕討伐を生業にはしていたものの、わずかな情報を頼りに標的とする罪人を探し求めて諸国を渡り歩くほとんど成り行き任せの放浪暮らしで、目的と呼べるものがあるとすれば行く先々で名のある武芸者の元を訪ねて指南を仰ぐ剣術修行の旅といえるだろう。
隣国から国境を越えると、目の前には広大な山岳地帯が広がっていた。連なる山峰の遙か彼方、ひときは大きく聳え立つ山が見える。おそらくあれが目指す霊山なのだろう。
交通機関と呼べるものなどあるはずもなく、移動手段は山間部に点在する集落を訪ねて宿を求めるか、山中で野宿をしながら険しい山道をひたすら歩き続ける以外に他に方法はなかった。
入国してから四日目。山頂付近から麓を見下ろすと峠の向こうに集落が広がっていた。山の中腹辺りには小さいが寺院のような建造物が見える。
山岳地帯の山間部には大小様々な寺院が点在しているのだと聞かされていた。それら寺院の総本山が、霊山にある大寺院ということだった。
日暮れまでに集落に辿り着ければ一夜の宿を借りることができるかもしれない。久しぶりにまともな食事を採ることもできるだろう。
カズマはそう言って先を急いだ。
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