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「抜けば斬ることになります」
カズマが静かに言った。
男たちがカズマの静寂に怯んだ。それなりの剣士なら、相手がただ者でないことぐらいは感じ取れるだろう。男たちはそれなりに剣の心得のある剣士ということらしい。
カズマにカタナを抜く気配は感じられなかった。男たちを叩きのめすだけならば拳だけで十分だった。
だが、抜き身を手に斬りかかってくる相手に対してカズマは容赦なかった。さらに、相手がただの与太者ではなく、紛れもない剣士だということも男たちにとっては不運だった。場合によっては二度と剣を握れなくなるだろう。
男たちは引くに引けないようすで、カズマを威嚇しながらじりじりと躙り寄ってくる。
この状況で、自分ならどうするだろうかと考えた。警戒すべき相手はどの男か、誰を最初に斬るのか、どうやってこの状況を切り抜けるのか。
正面にふたり、左右と背後にひとりずつ。正面のひとりは女を羽交い締めにしているので即座に剣は使えない。左右と背後の男たちは互いの動きを窺うように目配せをしている。若者が少し距離を開けて佇んでいるが、数に入れる必要はないだろう。
この場を仕切っているのは正面の男。だとすれば、男を斬りつけると同時に薄暗い森の中に駆け込むのが妥当だ。一度に五人の剣士を相手にすることはできないが、見通しのきかない森の奥に誘い込み、一対一の勝負に持ち込めれば活路を見出すことはできるだろう。
頭の中で何通りかの動きを思考していくうちに、次第に身体が熱くなってきた。カタナを抜きたくてしかたがない。勝負したい、自分の腕をためしてみたい。そんな衝動に駆られて身体の震えが止らなかった。
剣術の稽古ではカタナに見立てた木刀で素振りを数百回、数千回と日々繰り返すばかりで、抜き身での太刀稽古は許されなかった。当然、実戦経験などあるはずもない。
それでも、負ける気がしなかった。
早く抜けよと思った。男たちが先に剣を抜けば、こちらもカタナを抜くことができる。カズマもそれを咎めることはないだろう。
鼻から静かに息を吸い込んで、ゆっくりと口から息を吐いた。
腰を落とし、背筋を伸ばし、身体の軸を意識しながら、つま先に重心を移して、左手で鞘を握り締め、柄に軽く右手を添えていく。
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