零 一

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「カズマ・マダライ・コーサス、その命貰い受ける!」  ボーグが叫んだ。五名の剣士たちが円陣を組みながら親子に詰め寄っていく。 「その方らは何者か?」  男の声は穏やかだった。五名の剣士に囲まれても、動じるようすもない。  娘は左手で腰の鞘を握り締め、柄に右手を軽く添えて、周囲に視線を走らせながら冷静に状況を見極めようとしている。 ( この娘、剣を使えるのか。 )  娘の鋭い視線がボーグを捉えた。  ひとりひとりの剣士の力量を推し量り、警戒すべきはお前だけだとでもいうように口元に笑みを浮べて見せる。その面構えと気迫は、過去にひとを斬ったことのある剣士のものだった。 「油断するな、娘は剣を使えるぞ!」  ボーグが警笛を鳴らした。  だがしかし、腕に覚えのある若い剣士たちはそれがどうしたというように、意に介するようすもない。 「アマイリヤ、行けっ!」  男が叫ぶと同時に、娘が円陣の隙間を突破して脱兎のごとく駆け出していった。 「娘を追えっ!」  ゾーグが三名の剣士たちを従えて娘の後を追いかけていく。 「娘を走らせたのは間違いだったな」  森の奥に消えていく仲間の後ろ姿を見送りながら、ボーグがほくそ笑んだ。 「俺たちの目的はコーサス一族の末裔である娘の命を絶つこと。一族の血を受け継がぬ余所者に用はない。だが、お前に討たれた父親の仇は取らせて貰う」 「父の仇と?」 「いまより八年前、オスロの西。ダンクーンと呼ばれる荒れ地にある食堂で、お前に斬り殺された剣士は俺の父親だ」 「八年前、オスロ・・・」 「お前は父とその配下の者を殺害したのちに、強盗殺人犯として警察隊に届け出た。父は、異国の地で罪人の汚名を着せられたまま死んだのだ」 「我ら親子を待ち伏せするために、店の主人と従業員にくわえ、たまたまそこに居合わせた旅人を皆殺しにし、店の主人と客になりすまそうとした殺人集団のことか。あの時の頭首が其方の父親であったと」 「それだけではない、お前は後に続く追っ手をことごとく討ち果たした。積年に渡る一族の遺恨を、今日こそは晴らさせてもらう」  ゾーグが憤怒を露わにして男を睨み付けた。 「なるほど、長年にわたり我ら親子を必要に追い続けて来た刺客はその方らであったか。それがわかっただけでもありがたい」  男が静かに腰の剣を抜いた。正眼に構えた剣を丹田に下ろしていく。  男に驚異は感じられなかった。背は低く、身体も細い。細身の剣は小枝のように頼りなく、やさぐれ剣士のなれの果て、容易く討ち取れる相手であることは明白に思えた。  だが、その根拠のない優越感が気を緩ませ集中力を鈍らせる。 ( 親父はこれに、負けたのだ・・・。 )  ボーグは大きく後ろに下がり、間合いを取ると、体勢を立て直した。
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