零 二

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 零 二

          零 二  樹海の奥には手つかずの自然が残されていた。  生い茂った植物、立ち並ぶ樹木、横たわった枯れ木や地を這う木の根を苔が覆い尽くして、辺り一面に幻想的な深緑の世界が広がっている。 「あそこだ。娘を逃がすな!」 「小娘が、ちょこまかと」  静まり返った森の中に、男たちの怒号が響いた。  娘が樹木の間をすり抜けながら、茂みの中を駆け抜けていく。その後を、ゾーグを先頭に三名の男たちが追いかけていった。  平坦な場所ならば子供の足に追いつくことも容易だろうが、岩や木の根や地面の凹凸に足を取られて、距離は一向に縮まるようすもない。 「ええいっ、くそぉ!」  ゾーグが木の根につまずいて前のめりに倒れ込んだ。苔の上を滑りながら緩やかな傾斜を転がっていく。 「俺にかまうな、娘を追えっ!」  ゾーグを後目に、三名の男たちが娘を追って走り去っていった。 「このまま樹海の奥に逃げ込まれたら見つけることは困難だ。そこまで計算したうえで娘を走らせたのか」  ゾーグは悔し紛れに拳を地面に叩きつけた。大きく息をつき、剣を腰の鞘に収めると、その場に座り込んだまま、がっくりと肩を落とした。 「あのようすでは娘に追いつくことはできまい。さらに森の奥に入れば樹海から出られなくなる恐れもある。どうやら引き返すしかなさそうだ。 いまごろボーグが流浪の男を仕留めていることだろう、父親の亡骸を餌にして娘が姿を見せるのを待つしかない」 「そっちに行ったぞ、逃がすなっ!」 「いたぞ、娘を見つけた!」  近くで仲間の声が聞こえた。気配が次第に近づいてくる。 「どういうことだ、娘が引き返して来たのか」  ゾーグは素早く立ち上がり、声の方へと駆け出した。
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