零 二

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 前方の茂みの陰から飛び出してくる娘の姿が見えた。剣は腰の鞘に収めたままで、体勢を低くしながら、四つ足の獣のように地面を這い回っている。  その前後から、二名の男たちが獲物を挟み込んでいく。 「娘は俺が貰った!」  ひとりの男が娘の背後から斬りつけていった。娘は足下の岩を蹴り、瞬時に軌道を変えた。振り下ろした剣の矛先が地面を抉っていく。 「逃がすか!」  もうひとりの男が娘の前に立ちはだかり剣を振り下ろした。その矛先を難なく交わすと、娘は男の脇をすり抜けながら低い体勢のまま剣を抜いた。 「うっ」  男が眉をしかめた。ふくらはぎを斬りつけられている。 「くっそぉ。足を斬られた」 「小娘が、舐めやがって!」  娘の背後に迫った男が苛立つように剣を振り回した。娘は身体を反転させて素早く男の脇をすり抜けると、すれ違いざまに太股を斬りつけていく。 「ぐおおっ」  男が唸りながら巨木に寄りかかった。右の太股が斬り裂かれて、大量の血が流れ出している。 「どこだ、娘はどこに行った!」  ゾーグが離れた場所から声をかけた。ふくらはぎと太股を斬りつけられた男たちが、足を引きずりながら辺りを見回している。 「気をつけろ、娘は俺たちの足を止めるつもりだ」 「くそぉ、ふざけやがって。小娘が、ぶっ殺してやる。出てきやがれ!」  太股を斬りつけられた男が、傷口を布で縛りながらわめき散らした。 「娘を追い詰めたぞ!」  森の奥で、残るひとりの仲間の声が聞こえた。  ゾーグが声のする方へと駆け出すと、その後を二名の男たちがおぼつかない足取りで追いかけていく。 「もう逃がさんぞ!」  男が娘の背後を取った。  倒れた巨木に行く手を阻まれて、娘は逃げ場を失っている。 「おりゃああっ!」  男が声を上げながら剣を振り下ろした。  その瞬間に、娘は巨木の木肌を蹴って宙に飛んだ。 「なんだとぉ?」  見上げると、真上に逆さになった娘の顔が見えた。娘は宙返りしながら男の頭上を跳び越えて、背後に着地すると同時にふくらはぎを斬りつけていく。 「小娘が、こしゃくな真似を!」  男が傷の痛みで思わず膝をつくと、娘はその左胸に剣を突き立てていった。 「はう・・・」  心臓を貫かれ、男が息を詰めた。眼前には、鋭い眼光で睨み付けてくる娘の顔があった。  娘は胸を蹴り飛ばして剣を抜き取ると、森の奥へと姿を消していく。  男は地面に顔面を打ち付けながら倒れ込み、そのまま動かなくなった。
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