零 二

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 一部始終を見ていたゾーグと男たちは、呆気にとられてその場に立ち尽くした。 「いまのを見たか。宙を舞いやがった・・・」 「いかれていやがる、とても人間業とは思えない。あの娘、獣にでも育てられたのか?」 「身体が小さく体重の軽い子供だから、あのような荒唐無稽な芸当もできるのだ。周囲の環境を利用して、自分の持ち味を活かす。あの娘は森の中での戦い方を熟知している」  ゾーグが忌々しげに言った。  小娘に弄ばれている。これまで経験したことのない屈辱感を覚えて、歯ぎしりしながら怒りを露わにした。 「娘はどこだ、どこにいきやがった」  片足を引きずりながら、男たちが四方に目をこらす。 「その足では娘を捕まえることなどできん。ここは一旦引き返して、向こうから近づいてくるのを待つしかない」  ゾーグが来た道を戻りはじめた。男たちが辺りを覗いながらその後に続いた。 「娘はどこかで俺たちの動きを覗っているはずだ。追うのを諦めたと見せかけて、こんどはこっちが娘を誘き寄せる番だ」  ゾーグは周囲の気配に意識を向けながら、森の中を引き返していった。  太股を斬りつけられた男が遅れはじめた。止血はしても出血が止るようすはなく、立っているだけでも精一杯だった。 「ほら、しっかりしろ」  ふくらはぎを斬りつけられた男が肩を貸した。二人とも片足を引きずりながら、なんとかゾーグに追いつこうとしているが、距離は離れていくばかりだった。 「まずいな、どうやら迷ったようだ」  ゾーグが思わず足を止めた。  前方に、根元だけを残して倒れている巨木が見える。その倒木は、森に入ってから一度も目にしていないことは明らかだった。  娘を追いかけることに必死で目印になるものに気を配る余裕はなかった。周囲を見回してみてもどれも同じような景色に見えてくる。森の中を駆け回る娘の動きに翻弄されて、気づかぬうちに方角さえわからなくなっていた。 「森の中を歩き回れば無駄に体力を消耗するだけだ。そうかといって、ここで待ち伏せしたところで娘の方から姿を見せる保障もない。完全に、小娘にしてやられた」  ゾーグは空を扇ぎながら、生い茂った木々の枝葉の隙間から差し込んでくる木漏れ日に目を細めた。途方に暮れた表情を浮べている。 「ぐえぇっ」 「うぎゃあっ!」  背後で唸り声が聞こえた。  振り向くと、緩やかな傾斜の上で肩を組んでいる男たちの身体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。  その後ろに、深緑を背にした娘が立っている。
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