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「まさか、自分の方から姿を見せるとは・・・」
地面に横たわった男たちは見事に背中を斬り裂かれていた。口から血を吐きながらしばらく喘いでいたが、やがて呼吸が途切れて動かなくなった。
娘は逃げも隠れもしなかった。
手にした剣の矛先でゾーグを指し示しながら、鋭い眼光を向けてくる。
「俺と差しの勝負をしようというのか。そのために、手下たちを先に始末したのだな・・・」
剣を使えるというボーグの警告が、ようやく理解できた。
娘は剣士なのだ。
「いい度胸だ!」
ゾーグが素早く剣を抜き、緩やかな傾斜を駆け上がっていった。
娘も同時に傾斜を駆下りてくる。
迷いもなく、自分に向かって一直線に駆下りてくる娘の頭上に目がけて、ゾーグが剣を振り下ろしていった。
娘は素早く身体を倒すと、苔に覆われた地面の上を滑りながら、ゾーグの股の間を潜り抜けていく。
走ってくる速度に合わせて振り下ろした剣を、娘は滑る速度で紙一重で交わした。股の間を潜り抜けていく瞬間に、太股の内側を斬りつけていく。
それは、小柄な子供ならではの俊敏な動きと、小型の剣だからこそできる巧みな太刀捌きだった。
「うおおおっ!」
ゾーグが唸り声を上げた。
股の内側から血しぶきが上がり、大量の血が堰を切ったように流れ落ちていく。大腿部の動脈を斬り裂かれたのだ。
溢れ出す血の音が聞こえた。ゾーグはたまらずその場に両膝をついた。大量の血が苔を真っ赤に染めながら、傾斜を伝って娘の足下へと流れ落ちていく。
「アマイリヤ・マダライ・コーサス・・・」
ゆっくりと身を横たえながら、娘の姿を振り返った。
娘は小型の剣を腰の鞘に収めて、うやうやしく御辞儀をすると、そのまま背中を向けて立ち去っていった。
「い、いくのか。俺の生死も見届けないで、いってしまうのか・・・」
身体が小刻みに痙攣を繰り返した。意識が朦朧として、視界が霞んでいく。
「兄貴、無念だ・・・」
黄昏の中で、ゾーグは命の鼓動が止るのを感じていた。
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