諦めることこそ、救い。

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諦めることこそ、救い。

見ず知らずの人に優しく出来ますか?――その問いに「はい」と答えられる人は多い。 だが、応えられる人は少ないだろう。 何故なら人に優しく出来る人間とは、心に余裕があるかないかで決まるからだ。 もちろん聖人君子のような人ならばどんな状況でも応える事が出来るかもしれないが、そういう人物とは多彩な才能を持ち、品格ある人物だということ――つまりそんな人物にこそ余裕があるのだ。 そんな奴と出会う確率なんて奇跡的なものだろうし、そんな人物に成る事も凡人には不可能に等しい。 成ろうとするのも烏滸がましいくらいだ。 そもそも奇跡とは諦めず、逆境を跳ね返して進む鋼のような意思を持って日々を生き抜き、何が何でも叶えてみせるという強欲さ。 そんな不屈の心なくしては奇跡が訪れることはないのだ。 結局何も持ち合わせていない者に必要なのは、時の運。 たった少しの幸運すらも訪れなければ兆候なんてものも訪れる事はないし、奇跡なんて大層な物が顕れる訳もない。 元々持ち合わせている物が皆無ならば、生まれ落ちた環境を覆す事なんて出来る訳もないのさ。 そう、俺は悟っている――いや、それは格好をつけた言い方だ。 実際はただ己の現実に悲観し、諦めてしまっているのだろう。 天涯孤独とは、なんて虚しいものなのか。 家族、仲間、身内、それとかけ離れる存在に優しくするなんて夢のまた夢。 こんな俺に見ず知らずの人は声も掛けずに通りすぎるのみで、運よく目が合ってもこちらから目線を落とし道の端を通る他にない。
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