罪と罰

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<「ごめんなさい」と言う理由> 父の他界した月命日や時間に、「ありがとう」ではなく「ごめんなさい」と言ってしまう。 毎日のように父と喧嘩をしていた反抗期の絶頂期に、父は他界した。 なので、生前の父に対して「ありがとう」と言ったことはないし、 「ありがとう」という気持ちを抱いたこともなかった。 「ごめんなさい」と言ってしまうのは、 そんな父に対して申し訳ない、と考える俺の心の声なのだと思う。 でも本当にそれだけだろうか? 違う。 幼いころに親を亡くした人は、俺だけじゃない。 そんな人々が、口を揃えて言う。 「結婚して、子供を産んで分かりました。あの時、どんな気持ちで親が死んでいったのか、って。 この子をずっと見守っていたいし、この子にはあんな悲しい思いをさせたくない。 この子を大切に育てていくのが、私にとっては、死んだ親に対する親孝行なのかもしれません。 なので今は、親に生んでくれたことに感謝しかありません」って。 その時が来たら、自然に「ごめんなさい」が「ありがとう」に変わるのだろうか? 俺にはその時は来ない。 俺は物心がついたころから、性的対象が女性ではなく男性であった。 幼いころから、それは異常なことだと察し、 それを隠すために、幼稚園で一番かわいい女の子と結婚の約束をしてまわりを驚かせた。 子供らしく、正直に生きてきたつもりだけど、 同性愛者である、ということだけは、いつも隠し続けて、「男」を演じてきた。 親にそのことを話したことなど、もちろん一度もない。
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