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私、織部鈴が古井敏彰に最初に出会ったのは、偶然に過ぎなかった…。出会った事すらすぐに忘れてしまうぐらいの…些細なものだった。
私はいつもと同じ時間に勤めている飲食店に出勤する。変わらない日常のはず…だった。でも、店長の一言で変わった。
「鈴ちゃん!ごめん!今日は他店に手伝いに行ってくれる?」
全国にチェーン店がある大型店ならではの話しだ。
「えぇ~?!もっと早く言ってくださいよ!」
私は言っても無駄だとわかりながら悪態をつく。
「失礼します」
結局、手伝いに来てしまった。知らない顔ばかり…。私は不安になり始めていた。いつもは気が強い私だが、さすがに落ち着かない。
「織部さん?」
後ろから声をかけられ驚く私。
「は、はい」
思わず声が裏返る。
「今日は無理を言って悪かったね」
中年太りが目立つ店長が声をかけてきたのだ。
「いいえ。足手まといにならないように、頑張りますね。」
私は作り笑いで答える。その店長の隣に、捨て犬の様な顔の大学生風の青年がいた。それが…古井敏彰だった。
私達は一言も口を聞くことはなかった。そして、記憶の片隅えと消えていった。また、逢うことになるとは思いもせずに…。
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