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話している時にも視界には巨大彗星がどんどん近付いて来るのが見える。賑やかに話しているつもりだが心の中は恐怖でいっぱいだった。
車は砂浜に停まった。引力のせいなのだろうか、波が荒い。水もいつもの綺麗なブルーでは無く泥色に濁っている。
「あ!」
遠くの高い崖から次々に身を投げる人たちが見えた。崖には行列が出来ていた。
「バカだね。せっかくの残った時間無駄にして」
「本当だよね」
ううん。私だってそうしていたかもしれない。裕也の横暴、ブラック企業での激務、親との不和。色々な事が重なりすぎて疲れ切っていた。
そんな時に彗星激突のニュース。これで自由になれると思った。私を苦しめてきた全てのものが消滅するのだと思うと嬉しくなった。
そのニュースを聞いてから、引きこもる裕也を置いて思い切り1人で遊んだ。行きたい所へ行き食べたいものを食べた。1人でいる気楽さを満喫した。
でも次第に人々が焦り始め、悲嘆にくれ、おかしくなってきた。初日こそニュースで彗星について報道していたが、次の日からはまともなニュースは流れなくなった。恐怖に泣き叫ぶアイドル、遺言のような言葉を吐き出すアナウンサー、自暴自棄になった若者がテレビ局を占拠し聞くに耐えない言葉を撒き散らす映像。
テレビは終わった。観る価値が無くなった。政府も警察も病院も機能停止している。
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