小さな決断…香織

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* 「な、なんだって~!」 引っ越しの話をすると、母さんはやっぱり目を丸くして驚いた。 「ごめんね。 夏美さん、多分、堤さんを一人にするのが心配だったんだと思う。 それで……」 「だったら、あんた一人で行けば良いじゃないか。」 「だめだよ。アパートの立ち退きだってもう言ってあるんだから、二人で行かなきゃおかしいじゃない……」 「でも、私はその人に会ったことさえないんだよ。」 「大丈夫だよ。 それまでに会いたかったら会えるようにするから。」 母は、突然の引っ越しを渋っていた。 それも無理からぬ話だ。 母は堤さんに会ったこともなければ、どんな家かも知らないんだから。 「広くて明るくて、庭には綺麗な花がいっぱいですっごく気持ちの良いお宅なんだよ。」 「へぇ……私達が住んでもじゃまにならないくらい広いのかい?」 「うん、大丈夫。 夏美さんと小太郎ちゃんがいなくなるし、三人でも広すぎるくらいだよ。」 「それで……堤さんは、本当に私も行って良いっておっしゃってるのかい?」 「もちろんだよ。」 母さんは、ぶつぶつと独り言を言いながら考えて込んでいた。 引っ越しの費用は、夏美さんが全部持つとおっしゃってくれた。 そればかりか、何か必要なものがあれば何でも言ってくれと。 「こんなことを頼めるのは、香織さんしかいないから。」 そう言われたら、ますます私は引っ越さないといけないような気持ちになっていた。 だけど、問題は母だ。 母がどうしても行かないといったら、私はどうすれば良いのだろう? * 「じゃあ、まず、行くだけ行ってみようか。」 次の日の朝食の時、母さんが唐突にそんなことを口にした。 「……え?」 「だから、堤さんのお宅だよ。 あんたは行きたいんだろ? もしも、どうしても折り合いが悪いとか、なにかあればそれはその時に考えよう。」 「あ……ありがとう! 母さん、ありがとう!」
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