小さな決断…香織

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「それでね……私、思い切って、堤さんのことを好きだって告白したんだ。 そしたら、堤さんも同じ気持ちだって言ってくれて……」 「良かったじゃないか!」 母さんは、本当に嬉しそうに晴れやかな顔をして、そう言ってくれた。 「でもね…… 前にも少し言ったけど、堤さんの心はまだ元気にはなってない。 なんだかものすごく自信をなくされてるみたいなんだ。 自分のことを駄目な人間だって、そんなことばっかり言って…… それで、もう少し待ってほしいって言われたんだ。」 「そうかい。 ……ご両親の事故は何年前のことだったっけ?」 「確か、四年とちょっとかな。」 「それじゃあ、仕方がないね。 その人は、目の前で事故を目撃されたんだろう? そんな経験が、四年や五年で忘れられるはずはないもの。」 「そうよね……とっても深い傷だもんね。 私…いつまでだって待つ気持ちはあるんだ。 堤さんが、恋愛にも前向きになるまでずっと待つつもり…… 話は変わるんだけど……母さん……もしかして、母さんが事故に遭ったのは、お姉ちゃんをかばったからなの!?」 私の質問に、母さんの顔は大きく動揺した。 それは、答えを聞かずともそうだとわかるくらいに…… 「やっぱり、そうだったのね。」 「どうして今頃、そんなことがわかったんだい?」 「堤さんが、そうおっしゃったの。 事故のことをあれこれ話してたら、母さんがお姉ちゃんをかばって事故に遭ったんじゃないかって。」 「実はそうなんだよ。 私は、あの子の負担にならないようにと思って、そのことは絶対に誰にも言わないように釘を刺した。 でも、そのことが却ってあの子の心の重石になったんだね。 今ならわかるよ。 でも、当時の私はそれがわからなかった。 隠しておくことがあの子にとって一番良いことだと思ってたんだ。」 母さんは遠くを見る様な目をして、そう呟いた。 その後悔が、今でも母さんを苦しめていることは、眉間に刻まれた深い皺からよくわかった。 「……母さん……いつか、お姉ちゃんと父さんを探してみようよ。 今更、やり直すってわけじゃないけど、当時言えなかったこと…ちゃんと話したい。」 「そうだね。 そう出来ると嬉しいね。」 「それと……堤さんにも近いうちに会ってね。」 「あぁ、良いよ。 あちらさんが会って下さるなら、私はいつでも……」 恥ずかしかったけど、話して気持ちがすっきりした。 いつも感じていた、母さんとの間の壁のようなものが、急に消えてなくなったような気がした。
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