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「香織さん、お肉煮えてるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
それから数日後、私は夏美さんから堤さんの家の夕食に招かれた。
前日に電話で、「とにかく私の話に合わせて!」と指示された。
その内容については、決して教えて下さらなかったので、何があるんだろうと心配しながら、私はおいしい鍋料理を堪能した。
「じゃあ、こたはそっちでDVDでも見てて。」
「大人のお話?」
「うん、そう!」
小太郎ちゃんは、素直にリビングの方に走って行かれた。
「さて、と……
香織さん……あんた、まだ優一にあのこと言ってないんだね?」
「え!?え、ええ……」
何のことなのか、まるでわからなかったけど、とにかく話を合わせるように言われていたから、私は曖昧にそう答えた。
「あのことって、何なんですか?」
「もう~!優一、いいかげん、敬語はやめなよ。
あんたら、一応、恋人同士なんだから……」
堤さんは、困ったような顔で肩をすくめられた。
「そんなことより、あのことって何?
なっちゃんは知ってるんでしょ?」
「あのね、香織さんの住んでるアパート、老朽化で立ち退きになるんだって。」
「え!?えーーーっっと…そうなんです。」
ありもしない夏美さんの作り話に、驚いて声を出してしまった私は、それを必死に取り繕った。
「新しい家を探すったってこのあたりはけっこう家賃も高いし、かといって遠くに引っ越したら通勤も大変じゃない。
ちょうど私達も出ていくことだから、それじゃあ、ここに住んだら?って言ったんだ。
私が使ってた部屋は二つにも分けられるし、お母さんとも住めそうじゃない?
でも、香織さん、そんな厚かましいことは言えないって遠慮して……」
夏美さんの言い出された突拍子もない話に、私は冷や汗が止まらなかった。
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