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「なっちゃん、ちょっと手伝ってもらえないかな?」
「うん、良いよ。何?」
僕は、なっちゃんを両親の寝室に誘った。
「何するの?」
「……ここを、篠宮さんに貸そうと思うんだ。」
「えっ!?」
なっちゃんは目を丸くして、僕の顔をまじまじとみつめた。
「本当に良いの?」
「……どうかな?まだよくわからない。
でも、篠宮さんのお母さんは事故の後遺症で足が悪いって言ってたし、二階に上がるのは大変じゃないかなって思うんだ。
どの程度悪いのかもよくわからないんだけど、もし階段から落ちたりしたら大変だからね。」
「そっか……そうだね。
で、どれを片付けたら良い?」
「それがわからないから、なっちゃんを呼んだんだよ。
ここはほとんど手を加えてないからね……でも、それじゃあ、篠宮さん達も暮らしにくいし、それに……
母さん達も、きっともういいよって言ってるような気がするんだ。」
なっちゃんは、僕の背中を優しくポンポンと叩いた。
「そうだね。
母さん、けっこう貧乏性だったから、きっとそう言ってるよ。
この家で一番日当たりの良いこの部屋を使わないなんて、もったいないよって。」
「……だよね?」
なぜ思いきれたのかわからない。
だけど、僕はなぜだか両親の部屋を解放することを決意した。
篠宮さんのお母さんの足のことを考えたのは事実だけれど、だからといって、どうして今までなっちゃんにも使わせなかったあの部屋を、使わせるつもりになれたのかは全くわからない。
「私、母さんのパジャマとか普段着、使わせてもらうね。
あ、父さんのは亮介に着させよう。」
なっちゃんは、クローゼットを開いて、両親の衣類をあれこれ見ていた。
それを見ていると、なんだか気持ちが落ち着かなかった。
「あ、あの…なっちゃん……」
「優一……物はなくなっても、母さん達の記憶は一生私達の中から消えないからね。」
なっちゃんは僕が言いかけたことをわかってる。
「……そうだね。」
「優一、あっちに行ってて良いよ。
私がちゃんと片付けるから。」
「じゃあ、お願いするね。」
きっとなっちゃんは処分する両親の衣類を僕に見せないようにしてくれるんだ。
もう必要はなくても、捨ててしまうことには強い抵抗があった。
両親の記憶を捨ててしまうようで、怖くて手がつけられなかった。
だけど、きっとなっちゃんの言う通りだ。
両親の記憶は、僕らの中に永遠に残ってる。
(それさえあれば良いんだ……)
そうは思っても、やはりまだ自分では出来ない。
僕は辛い役目をなっちゃんに押し付けて、すべてが片付くのをひたすら待った。
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