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あの日から…優一
***
「じゃあ、明日、待ってるからね!
どんなに遅くなっても構わないから、必ず来るのよ。
駅についたら電話してね。
あ、電話番号は……」
「わかってるって。
明日はそんなに遅くならないよ。
じゃ、明日ね!」
僕は半ば一方的に電話を切った。
受話器を持ちながら、父さんに愚痴を言う母さんの顔が目に浮かぶようだった。
でも、その頃の僕は仕事が生きがいみたいになっていて、電話をする時間さえもったいないと思ってたんだ。
話してる間に、書類の一枚でも書き上げたいと……その頃の僕は仕事にしか目が向かない状態だった。
父さんが定年になって……
それからしばらくして、家を買ったという連絡が来て、僕はとても驚かされた。
僕が小学生の頃に買った家は確かに手狭だったけど、それなりに思い出もあったのに、僕やなっちゃんには何も相談もなくその家を手放したというのには、正直、呆れた。
退職金も使い果たしたから、おまえ達に残すものは家しかないぞと父さんは呑気に笑って……
今度の家はけっこう広いから、なんならここに住んでも良いわよと、母さんも笑って……
その話しぶりから、二人が新居をとても気に入ってることはわかった。
もしかしたら、将来的には、なっちゃん夫婦と一緒に住むつもりで買ったのかもしれないとも思った。
両親のことをないがしろにしてたつもりはなかったけれど、大学から家を出てひとりで暮らすようになり、就職してからは実家に帰ることがめっきりと少なくなった。
僕のことを可愛がってくれる上司に恵まれたおかげで、仕事がとても楽しくなって、毎日ただひたすらに僕は仕事に打ち込むようになった。
そのせいで、今までなら実家に行ってた両親の誕生日や記念日には、ものを送ったり、メールをするだけになり……それが、さらには買い物に行く時間もなくなって、ただメールだけになっていき……
そんなことに罪悪感を感じながらも、なかなか両親に会いに行くことは出来なかった。
そんなある日のこと、ようやく連休を取れることになり、僕はそのことを両親に伝えた。
両親はそれはもうとても喜んでくれて……
僕はこの連休に、出来る限りの親孝行をしようと決めていた。
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