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「ふふ、おじいさん。あのお嫁さん、ずいぶん水泳が好きなのね。もうじき冬になるのに、楽しそうに泳いでるわ」
「ほう、薪割りから手が離せなくてな。どんなようすだい?」
「二の腕から下は水色の鱗に覆われていて、耳や背には薄い綺麗なひれがあるわ。脚は二本で、金魚みたいなヒラヒラとした尾びれが先端にあるの。陸で歩くのがつらそうだったけれど、こういうことだったのね」
「そうか、人魚だったのか。こんなに人里離れた山奥に来るなんて、訳ありだと思っていたんだ。わしが幼い頃はこの湖にもいたものだが、すっかり幻の存在になってしまったな」
「ええ。私たちは、生き残りの彼女を守らないと。これからも、異国のお嫁さんとして接しましょう」
秋の終わり、ケリー湖のそばに仲のよい夫婦が住み着いた。
木こりを生業にする夫は、泳ぎは得意だが滅多に人前に姿を現さない妻を守るようにして暮らしたという。
【了】
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