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「さあさあどこに行く? それとももう眠い? 添い寝してあげるよ」
「いえ、大丈夫です……一人で寝ます」
早々に帰って寝てしまおう。彦星の彼女になった覚えはないし、好きでもない相手とデートはしたくない。
「家まで送るよ」
「けっこうです」
「よし、行こう! あ、美咲ちゃんの家は知ってるから心配しないで!」
「叔母さんの家には住んでません」
「あれ、一人暮らしなんだ。じゃあ教えてよ。一人は寂しいでしょ?」
「私は一人でも平気なので大丈夫です。だからついてこないでください」
彦星の手を振りほどいて足早に歩きだす。しかし着物に下駄、振り切ろうとしても彦星は余裕の表情でついてくる。
「あの! あなたには織姫がいるんじゃないですか? 他の女性にうつつを抜かすなんて最低でしょう!」
浮気を責めると、彦星はキョトンとした顔で「うん、そうだね」と肯定した。
「でもさぁ、織姫ちゃんには年に一回しか会えないわけじゃん? 寂しいよそんなの。人肌恋しいんだよね。だから七月以外は地球の女性達とデートするんだ」
「はぁ?」
「それにバレないって。織姫ちゃんは七夕の日以外は仕事に没頭してるし、地球の様子なんて見ない見ない」
「そういう問題じゃないでしょう……」
頭を抱える。もし織姫にバレたら絶対にこいつは刺される。いや、もしかしたら憎しみがこちらに向けられる可能性もある。浮気した人より浮気相手に憎悪が向くのはよくあることだ。彦星が刺されるのは一向に構わないが、とばっちりを受けるのは勘弁願いたい。
「どうしたの? あ、頭が痛いのかな。心配だなぁ……やっぱり僕がついていてあげなきゃね。さ、家はどこ?」
「だから家までこないでって言ってるでしょう……」
彦星と話してると疲れる。振り切れないし、話は聞かない。諦めて添い寝を許可したほうが楽になるかもしれない。
「分かりました。添い寝だけお願いします」
ぶっきら棒に告げた瞬間、彦星が視界から消える。
「うわっ」
体を持ち上げられ、満面の笑みをたたえている彦星の顔がアップになる。
「ちょっと何するのよ! 顔が近い!」
「お姫様抱っこだよ。こうするとみんな喜ぶんだ」
「私は嫌!」
口調を荒げてバタバタと彦星の腕の中で暴れる。しかし彦星はびくともしない。
「ハハハ! じゃじゃ馬だな! あんまり暴れると頭の痛みが増すぞ?」
「誰がじゃじゃ馬よ! それに頭は痛くない!」
「べつに気を遣わなくても良いぞ?」
「気遣いなんてしてない!」
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