2話 開琉、初めて召喚される。(2)

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2話 開琉、初めて召喚される。(2)

 遠くからラギに吟味(ぎんみ)されているとは知らない開琉(かいる) は、公園の一番端にあるベンチにぽつんと座っていた。そこは遊具から一番遠く離れた所。 (またこっちを見てるよ)  子供を遊ばせているママ友グループに先程からチラチラと盗み見られていた。なるべく目立たないようにそっとしているつもりなのだが、平日の午前中に学生服姿はやはり目立つ。 (こっちのことは気にしないでくれよぉ・・・)  心の中で溜息をもらし、ママ友グループの目を気にしてないふりでビスケットをひと口かじる。  たまたま鞄に入っていたビスケットに救われる思いがした。何かを食べているだけで気が紛れたし気持ちも少し落ち着いてきていた。  子供達を遊ばせながら集まるママ達はこちらを見ながらこそこそと話を続けている。 (落ち着かない、家に帰ろうかなぁ)  中途半端な時間から学校へ行けば色々とつつかれそうだし言い訳を考えるのも難儀な話だ。しかし、家に帰ったら今度は母に捕まってあれこれと聞かれるに違いない。 (あぁ・・・・・・もぉ・・・)  小柄な中学生がひとりで公園にいる図は母親達の目には虐めを受けて登校できずにいるように見えるだろう。それは当たらずとも遠からずといった所だったのだけど。 「はぁー・・・。こんな事なら学校行けばよかったな」  いたたまれない。  今更後悔してもしょうがないがこぼれる愚痴に開琉の眉間にしわがよる。 (あれはマズかったかなぁ・・・・・・)  ベッドに潜り込んでしばらく経った頃、ふと気になった些細なことを思い出してまたため息をもらす。 「もしかしたらあの受け答えはまずかったかもしれない」  本当に些細なことだ。しかし、クラスカーストトップの機嫌を害する受け答えじゃなかっただろうかと思うと不安になった。  もしかして・・・と考え始めたら止まらない、気にしたらきりがない事を分かっていてもつい思考が止まらなくなる。 「今日、学校へ行ってもし皆から無視されたら」  そう思うと怖かった。  全て自分の想像にすぎないのに学校へ向かう足が重い。そして、その足が止まった。登校途中で見かけたクラスメートが目をそらしたように見えたから。 「気にするからそう感じただけで、偶然たまたまだよ」  打ち消そうとしたが上手くいかなかった。いったん引っかかってしまったものは拭っても残った汚れのように心に張り付いてなかなか消えない。 (夜の間に根回しが済んでしまったのかもしれない。今日から孤立した日々が続くかも・・・!)  パンパンになった不安から逃げるように開琉は公園へ駆け込んだ。それから数時間が経ち後悔の念が頭をもたげる。 「意外に大丈夫だったかもしれないのに・・・な」  開琉は足下に目を落として更に滅入った。 (自分が思うほど気にしていなかったかもしれない、思い過ごしだったら馬鹿みたいだ)  そう思ってももう遅い。 (母さんの質問責めに答えられる言い訳も考えなきゃならないし、それとクラスの皆にも適当な答えを・・・)  そこまで考えて開琉は髪の毛をくしゃくしゃにする。 「ああ! 面倒くさい!」  開琉はうじうじ考えている自分が嫌だった。ジロジロ見てくるママ連中を気にしていることも、母を気にして家に戻ることすら出来ない自分にも腹が立つ。  むしゃくしゃして落ち着かなくてベンチでジタバタする。 (嫌だ嫌だ嫌だ! ああ! 面倒くさいッ!)  再び頭を掻きむしる開琉を見て、 「大丈夫かしら・・・・・・」  遠く離れたママ達の声が聞こえて開琉は動きを止める。関係のない他人にさえ変な人物だと思われたくない。こんな時でも心の何処かでそう思っている自分がいる。 (何やってるんだよ! ああ、もお!)  苛々する。  鞄へ手を伸ばし衝動のままに地面へ投げつけたい、開琉の伸ばした手が鞄に触れた時。 (ん?)  開琉はぎくりと手を止めた。  地面に落とした視界の中に誰かの足が見えた。視線を上げるとすぐ前に子供が立っていて、ただ黙ってじっとこちらに体を向けている。 (こんな子供・・・・・・公園にいたっけ?)
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