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4月19日午後7時半。
「……に我、飯も風呂も断つこと厭わず。我、スマホ……」
「はい、今日はここまでだ。お前たち赤点組は一週間後追試だ。いいな」
補習が終了した時には、すでに日がどっぷり沈んでいた。
「終わった」
黒ノ洲真帆にとって、補習は耐え難い苦痛の時間であった。
当初の予定では、真帆はスマホショップで壊れたスマホから新機種に変えるつもりでおり、その後ヨドヤバシノカメラヤでスマホカバーを新調し、でもって帰宅後は……。
「嗚呼、カマゾンプライムお気に入り登録済みのドラマ、アニメ、洋画、邦画の世界に没入するはずだったのに〜」
「そうだよね。それにご飯とお風呂はなしね」
「当然!! そんな暇は……ない。って結衣! 土足で勝手に私の世界に入って来ないでくれる?」
「あんたでしょ? 自分の世界を補習に展開したのは」
「え? なにそれ」
結衣の話によると、真帆は補習終了五分前から一点凝視で何かに取り憑かれた様に『我、スマホ新機種と契約し、スマホ保護せしモノ、ヨドヤバシノカメラヤなる聖地にて授受す。その後、我の全てをカマゾンプライムに捧ぐ。その為に我、飯も風呂も断つこと厭わず』と、唱え続けていたとか。
補習の破壊力、恐るべし。
「ちょっと結衣! 馬鹿にしないでよ。何その文言。よくそんな事思いつくね」
「あんたのことなんだけど? ……もぅ、一週間後確認テストだって先生言ってたけど大丈夫? ちゃんと聞いてた?」
「しーっ!! ダメ! 話しかけないで! 補習で記憶した事忘れる!」
人差し指を突き立て結衣の口を封じる真帆。
「あっ、ごめん」
「せっかく覚えたのに……カマプラのタイムスケジュール。忘れたらどうするの!? 無駄になるでしょ?」
「……はぁ」
帰り支度を済ませ教室を出る間際、とっくに居なくなった数学教師の山田が戻って来た。何やら慌てた様子で教卓の中を覗くと、目当てのものが見つかったらしく安堵の表情を見せた。来週の確認テストの資料を忘れていたらしい。
その山田、去り際に真帆を睨みつけつつ言い放った。
「黒ノ洲、来週の追試には必ず来るんだぞ。でないと単位取れんからな……くっくっくっ、まあ来たところで血の雨が降ることに変わりはないがな」
「え? 血の雨? き、気持ち悪ぅ。それが教師の言うこと? 零点前提かよ、まったく」
「あ〜、血の雨が降るってそう言うことか! 真帆よくわかったね? 山田と相性ピッタリじゃん! ははっ!」
小馬鹿にされている気がした真帆は結衣を睨みつけ釘を刺すと、結衣はばつが悪くなり舌を出して戯けてみせた。
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