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ー某所某店。
本日の営業は終了しました。
明日のご来店お待ちしております。
「やっぱり」
スマホショップの前で真帆は天を仰いだ。
分かりきった事だった。
それでも真帆は自分の目で見て確認しない事には、気持ちがおさまらなかった。
彼女は思った。
自分が店に来てなかったら絶対まだ営業していたに違いない、と。
実際に来てみないと開いているか閉まっているかは分からない。つまり、学校から店に向かう頃はまだどちらの可能性もあると考えた。
「あれだ、シュガーさん家の猫なっ!」
シュレーディンガーの猫だ。
残念ながらスマホショップは閉店していたけれど、心の満足度は上昇した。
しかし、彼女は肝心な事を忘れている。
「はっ! ドラマ観れない!!」
そう、当初の目的である新機種への交換、およびその後のカマゾンプライムでの番組鑑賞はお預けが確定。
「……最悪」
真帆は肩を落としながらも重い足をなんとか前へ出すのだが、心がついて来ない。やはりスマホへの想いが捨てきれず、どうしたものかとシナプスをフル活動させ策を練り始める。
真帆は昔からこうだった。こうだと思ったが最後、思考の大半をその対象が占め、他の事に向くことはなかった。……邪魔が入るまでは。
「ちょっと、うるさいなぁ。考えがまとまらないでしょ?」
真帆が『うるさい』と煙たがったのは、すぐそばに居た占い師の事だった。
テーブルには紫色のクロスが敷かれ、定番アイテムの水晶はご多分に漏れず、ぶ厚い座布団に鎮座している。そして黒のローブと黒頭巾。口もとにも黒いベール。上から下まで黒。これが占い師でなく何なのかと言うくらいに、見るからに占い師だ。
その占い師が真帆に声を掛けていたのだ。
「うるさいとは随分な言い草だな。悩んでいる様だからひとつアドバイスしてやろうと思ったのだが」
「結構です。ところで私が何を考えてたのか分かるの? ……じゃあ当ててみてよ、私が何考えてたか。もし当たったら占い師さんの話、聴いてあげる」
虫の居所が悪い真帆は賭けを持ちかけた。
すると、占い師は真帆の質問にこう答えた。
「お主は『こうなったら結衣の家に押し掛けて無理矢理にでもスマホを貸してもらおう』と、考えていたのだろ?」
占い師なら少しくらいはそれっぽい所作で水晶に手をかざし、中を覗き込み、神妙な面持ちでやんわりな言葉を告げるのだが、この占い師はそういったルーティンがなく即答したのだった。
真帆は驚いた。
目論見を見事に当てられてしまったのだ。
「どうだ、当たりだろ? 顔にそう書いてあるぞ。だが、お主は当たりとは言わない。誰も自分の頭の中の事など分かるはずがない。お主はそう思っているのだから、お主が当たりと言わない限り当たりはしない」
それも当たり。
当たりも当たり、点数を付けるとしたら花丸百点満点の回答だ。
真帆は軽くあしらってこの場を去るつもりだったが、心理的にそう簡単には行かなくなった。途端に、占い師からこれまでまったく感じなかった圧迫感が可視具現化され、ぶよぶよした空気の塊が自分を包み込む不快なイメージが見えた。
「……急いでるから失礼します」
それが現状できる真帆の精一杯の抵抗だった。悔しさは声のトーンから伝わってくる。
しかし、この占い師はそう簡単に真帆を帰らせなかった。
「黒ノ洲真帆、卓上高校二年。十月十五日生まれ、十六歳、天秤座のAB型。そして今日の下着は黒! さらにスリーサイズは上から……」
「ストーーーップ! 話聞くから言わないで!!」
「……よろしい」
占い師は不敵な笑みを浮かべている。
こればかりは知っていないければ出てこないというワードを真帆に投げ掛け、彼女の足を完全に留まらせた。
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