第1話 クロノスマホは受難する!?

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 ただでさえ学校の授業で疲れているところ、放課後の補習で精魂尽き、スマホショップ閉店で希望を失い、変な占い師に目を付けられたが最後、今日は無事に帰宅出来るだけで良しとせねばなるまい。そう思う事で真帆は、なんとか乱れた心を落ち着かせようとした。  真帆は占い師に促されるまま、渋々正面に座った。  雑踏を行き来する人影がさっきより少なくなった。机の端に置かれた行灯が、寂しげな通りに僅かな安心感を与える。  座布団に全体の半分くらいを埋めた水晶はよく磨かれており、一点の曇りもない。水晶とはみなこういうものか。こんなに間近で水晶をまじまじと見るのは、真帆、初めての体験だった。  よく見るとその輝きは神秘的で、かつ流動的な、まるでオーロラの様に揺らめいている。 「綺麗な水晶。ねぇ占い師さん。これどこで買ったの?」 「ああ、これは駅前のファンシーショップ……」 「ファンシーショップ?」 「の、裏筋にある骨董屋の主人の知り合いのお爺さんの奥さんの勤めていた……その筋の人から授かったものだ」 「ふぅん。ま、なんでもいいけど」  占い師はひとつ咳払いをすると、真帆の額に自分の額を密着させ、瞳をじっと見つめた。そのままの姿勢で占い師が低く唸った後、真帆に問いかけた。 「お主に受難の相がでておる。一週間後、何か心当たりはあるか? ……雨が降っておる。赤い雨……これは血の雨?」  見えたビジョンに驚いたのだろうか、目を見開いた占い師は、両手で真帆の顔面を挟み上げた。頬が圧迫され、次第に顔が持ち上げられていく。 「一週間後……。そういえば、数学のテストがある。占い師さんよく分かったね? そうそう、血の雨ね。それって赤ペンではねられる例えでしょ? 私、そこまで落ちぶれてないから」 「お主、このままでは奈落に落ちるぞ」 「な……奈落。ぷっ!」  占い師の言葉がツボに入り、真帆は耐え切れずに吹き出してしまった。 「う、占い師さんも上手いこと言うね。奈落に落ちるって……もしかして、落第ってこと?」  何度も繰り返し占い師の言葉を思い出しては抱腹絶倒する真帆。笑えば笑うほど深みにハマっていく真帆は、もはや笑いのスパイラルから抜け出せなくなっていた。いよいよ笑いのテンションが最高潮に達すると、彼女は机をバンバンと叩き始めた。   「お、お主……いい加減よさぬか。あっ」  真帆の暴走を止めようと占い師が注意を促した時、事もあろうか真帆の手が水晶に当たった。ごろっと音を立て転がり出した水晶は、机の(へり)へ一直線に向かうと、二人の視界から姿を消した。  そして、破滅の音とともに水晶は無惨な姿に変わり果ててしまった。   「う、占い師……さん。ご、ご、ごめんなさい!!」  頭を抱え、顔面蒼白となった真帆はとにかく謝罪した。  占い師にとって水晶は欠かすことができない必須アイテム。それは命と同等、或いはそれ以上のもの。それを壊してしまった真帆は、それなりの償いをせねばと覚悟した。
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