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「とにかく一度持ってみよ。直ぐに他のスマホとの違いに気づくだろう。大丈夫。噛み付いたりはせん」
真帆は漸く箱に手を伸ばし、スマホを手に取ろうとした。が、手に、否、腕に伝わる感覚に頭が混乱した。
「なにこれ!? お、重い……持ち上がらない」
たかが手の平サイズのスマホが、片手で持てないほどの重量を有していた。それならと、真帆は立ち上がって両手で試みる。
指先に重みが伝わる。
その重みは直ぐに腕、肩、背中へ伝うと、とうとう両脚にまで達し、最後は足の指先まで行った。
段々と身体中の血液が激しく循環し、各所が熱くなってくる。
さっきと違い、本気で持ち上げようと意識したにも関わらず、それでもスマホは持ち上がらなかった。
「どうやって持つのコレ? 重くて持てないんだけど」
「その重みは言わば己そのもの。お主の質量そのままがそのスマホに反映される。つまり……」
「つまり……?」
「お主が重いと言う事だ。だからモテない……もとい、持つことが出来ない」
水晶を割られた腹いせなのか。ちょくちょく嫌なことを言ってくる。
それでも真帆は占い師の言葉を甘んじて受けた。
それにしても、真帆は、この短時間で随分と精神的耐久度が増した気がした。
「はいはい。で、コレと私を助けるのとなんの関係があるって言うの?」
「失礼。お主の重さとスマホの重さは全く関係ない。今の話、冗談だ。水晶を割られたお返しだ」
「……そっ」
「……うむ。ただし、このスマホを持てないことにはお主を救う事が出来ないのは事実。お主はまだ貫通しておらんからな。先ずはそれからだ」
「か、かんつう!? ちょ、な、なによそんな唐突に……なんで分かる……のよ」
思ってもいないワードの登場で、真帆は赤面し、途端にしおらしい態度を見せた。
その様子を占い師が目を細めて眺めている。
「何を想像しているのか知らんがそんなに恥ずかしがることはない。一瞬で終わる。指を埋めるだけだ」
「そ、そんな大事な儀式……ゆ、ゆ、指でなくて……私は、ほ、ほん、本物の、あ、あ、アレ、アレ……」
「画面に五指の先を当ててみよ。少々気味悪いが指が入る所まで埋めるのだ」
「画面に……? だ、だよね! あ、それならそうと早く言ってよ! そうでなかったら初めてで五本もは……無理」
真帆の額から変な汗が滲んだ。
「スマホが登録者の生体反応を認識すると電気信号を登録者に流す。その際全身に電気が流れる。それがいわゆる貫通だ。わかりやすく言えば生命エネルギーの流れを良くするバイパス工事みたいな事だ」
「こう?」
「うむ。ちなみに高圧の電流が流れるから……」
「ウソっ!? 早く言ってよ!!」
もう抜けない。
真帆の五本の指が、ズッシリと構えるスマホの黒い画面にズブズブと音を立ててめり込んでいく。すると画面の向こう側からゲル状の何かが指を包むような感触が伝わってきた。
徐々に指先が熱くなってくると、電子アナウンスが鳴った。
『アナタノセイタイハンノウヲカクニンシマシタ』
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