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親友
_今年は物語でも書いてみようか…
机の上に広げた夏休みの課題の一覧を眺める。読書感想文、ポエム、エッセイ…etc.今年の国語の作文の課題はどうしようか、と悩むこと数十分。今年も無難に読書感想文だな、と文綾は考えていたが、去年から気になっていた童話に挑戦しようか…と心が揺れる。
「はぁ…。でも、僕なんかに物語なんて書けるわけないよな。」
何をやっても平々凡々。良くも悪くも人並みに生きてきた文綾は、生憎、人々を驚かせるような突飛な発想も、感動を誘うような美しく丁寧な文章のセンスも持ち合わせていなかった。
「なぁ、文綾。お前、もしかして童話にするの?」
後ろから声が聞こえ、手元のプリントに影が落ちる。ぐるぐると同じ考えを繰り返していた思考を止め振り返ると、やはり、そこにいたのは親友の夏彦だった。
「夏彦…。あぁ、まあ。でも、少し悩んでるとこ。」
「どうしてだ?書けばいいのに。俺は好きだぜ、お前の考える話。」
物書きに憧れている文綾は、時折、頭の中に思い描いた妄想を夏彦に語っていた。当然、文章にしたことなど一度もないし、まして、それを数多の他人の目に晒そうだなんて考えたこともないのである。
「ありがとう。今は、”前向きに検討する”とでも言っておくよ。」
「なんだそれ。ふっ…らしいな、文綾。」
それから、二人して涙を流すほど笑った。その声は開け放たれた教室の窓から先へと広がる青々とした空に吸い込まれるようだった。
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