回想

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回想

夏彦は、不思議な男だった。時期外れの転校生、大人っぽくてミステリアスなイケメン、学校一のモテ男…。彼を表すべき言葉は溢れんばかりで、学校という狭い共同体の中でその存在を知らない者はいないほどだ。 __「初めまして。羽白夏彦です。これから宜しく。」 6月30日。高校一年生の夏、もう梅雨も終わりかけだというのに、その日は土砂降りの雨の日だった。担任のつまらない話を聞き流すようになっていたクラスメートは突然の転校生の登場に沸き立つ。その男子生徒は簡単な挨拶と共に『はじろなつひこ』と名乗った。 _なぁ、羽白!こんな時期に転校だなんて珍しいよな。親の仕事の都合? _前はどこにいたの?出身は? _羽白君って大人っぽいけど、やっぱり彼女とかいるの? _誕生日はいつ? 「嗚呼。父さんが転勤族で、転校はしょっちゅうしてるんだ。前は北海道にいたよ。出身は京都。あ、だからって京都弁は上手くないから無茶振りは勘弁な。残念ながら彼女はいない。誕生日は7月7日だ。」 質問攻めに合った夏彦は、その一つ一つに丁寧に答えていく。文綾はそれを遠巻きにぼんやりと眺めていた。聞こうと思わずとも会話は聞こえてくるので、さらりと聞き流しながら視線を外し、未だどんよりと厚い雲が空を覆う窓の外に意識を向けた__
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