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7月7日。夏彦の誕生日を祝うついでに歓迎会をしようという計画は、クラス全体で実行されることになったのだが、忘れ物をしたことに気づいた本日の主役である夏彦は、ごめん、先に行ってくれ、と一言残し、教室に戻ってきていた。
「はっ、はぁっ。…あれ、誰か残ってる。」
あまり待たせるのも悪いと走ってきたためか、息を整えながら人影を見つめる。そこにいたのは、本を片手に机に突っ伏して居眠りをする文綾だった。珍しく晴れ渡った空は、夕暮れの赤い光を室内に届け、文綾を照らしていた。留められていないカーテンは、開け放たれた窓から入り込む柔らかい風を孕み、ちらちらとその姿を見えかくれさせる。
夏彦は一瞬、時が止まったような気がした。なぜかその光景を綺麗だと思ってしまったことに戸惑いを覚える。しかし、いつまでも突っ立っている訳にはいかない。記憶が正しければ安曇も歓迎会に参加すると言っていたはずだ、と肩を優しく揺する。
「安曇、起きなくていいのか?もうそろそろ下校時間だぞ。」
「ん…。……は、羽白?あれ、僕寝てた?」
文綾の問いに夏彦は頷く。周りには目もくれず黙々と本を読んでいる時の人を寄せ付けないクールな印象とは違い、真面目で堅くもなければ、ちゃらけた様子もない、普通を絵にかいたような高校生だった。
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