恋慕

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恋慕

話してみると、意外に二人は気が合った。本が好きだということ、甘党だということ、そして、周りから浮いているということ。話すテンポも、落ち着いた空気感も、沈黙ですら心地よいと感じるほどに。彼らが互いを親友と呼ぶのに時間はかからなかった。 「それで?結局作文の課題はどうするんだよ。」 「まだ決めてない。書き出しをどうしていいか悩んでてさ。設定諸々、構想も固まってないし…。」 「そうか。まぁ、話聞くくらいは出来るから、頭の中を整理するなら手伝うさ。」 「あ…あぁ、さんきゅ。」 こうやって夏彦に肩を叩かれる度に、視線を向けられる度に、文綾の体温が上がる。 毎日、飽きもせず他愛もない話をして、ちょっとしたことで笑いあって、あっという間に時間が過ぎ去る。初めての友人。気の置けない親友。少なくともそのような友人関係を築いたことのなかった文綾が、夏彦に友人以上の感情を抱くのは必然だったのだろうか。好きだという思いは日に日に強くなっていく。 「なぁ、それより!今年の夏は何する?予定確認しとけよ。」 「了解。計画立てるのは大事だからな。今年も遊べる日が多ければいいけど、課題がなぁ。去年は終わるか焦ったよ。」 「ははっ。まぁ、それも含めて、かな。手伝ってくれるんだろ?僕も出来るとこは手伝うからさ。」 僕は今、どんな顔をしている?しっかり答えることが出来ているだろうか。声は震えてない?頬は染まってない?と文綾はいちいち不安になっている。 _どうしようもないくらいお前が好きだよ。 この想いを伝えることは出来ない。自分も夏彦も男で、親友で、とても告げられるものではなかった。親友として隣にいることが出来ればそれでいい、と自分を納得させながら胸に想いを秘めて今日も隣を歩く。
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