第1章 甲府への道

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第1章 甲府への道

「土方副長、いえ……内藤隼人(ないとう はやと)さま」  ぎこちなく馬に跨った結衣(ゆい)は、隊士に声をかけられた。少し咳払いをしたあと、声色を低く作って低く答える。 「うむ」  慣れない馬、慣れない洋服、慣れない靴。  必死に背筋を伸ばして、威厳を持たせようとする。  細い身体を隠すため、胸や腹、腕までにも、さらしを何重にも巻いている。例年より遅い春に、浮かぶ玉の汗。決まりが悪くて、息が詰つまりそうになる。  女の自分が、内藤隼人こと、新選組の土方歳三に化けている。  滑稽な姿だった。  それでも、ずっと憧れていた近藤勇の要請には、否と言えなかった結衣。自分に、誰の視線も向いていないのをよく確認してから、ようやく俯いて深いため息をついた。苦しい。  しかし、甲府への鎮撫隊行軍は、はじまったばかり。
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