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まだ弟であることを確かめたくてそう声をかけた。
今は精神統一が必要だから声を掛けないでくれ、
と怒られた。
昨日は、
心細いから直前までついていて欲しい、
と言っていたのにあいかわらず勝手である。
くるくると天幕の入り口の布がめくりあがった。
迎えの少年が現れた。
固そうに広がったおかっぱ頭に、
眉毛が太くぎょろ目が輝いている。
いかにも将来はいかつい男になりそうな子だ。
ごわついた手を弟のほっそりとした白い手に差し出す。
「さっ!
十四郎!
いくぜ!」
例え十四番目とはいえ、
弟は王子である。
なんて無礼な物言いだと、
かっとなった。
「この子は目上の人に対する言葉遣いも知らないほど、
卑しい生まれなのだ。
僕がこの子をえらんだのだ」
そう弟に言われて、
私は怒りをしずめた。
少年は弟の顔に布をかぶせ彼の手を引き天幕を出て行った。
少年のおかっぱの下からは白い裾広がりの着物が広がっている。
鋭い陽光にてらされてくらげのようにちらちらと左右に揺れている。
私はその後姿を見ながら二十年前のあの日のことを思いだした。
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