第2章 十四郎の帰郷

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第2章 十四郎の帰郷

弓の弦のような雨が降る日だった。 私は家にじっとしていることができなかった。 地上はるか高くに堂々と建てられた大広間の床下に行き、 犬に熱心に芸を仕込んだ。 ************************** まりをわざと斜めに飛ばして、 大きな水溜りに投げ入れる。 まりは無数の波紋の広がる水溜りに勢いよく飛び込んだ。 水しぶきが盛大に跳ね上がる。 しぶきは力強く降る雨と交差する。 ************************** 犬がまりめがけて駆けて行く。 犬の駆け足が四方一帯に広がる足首の深さの大海原に、 鳴門模様をつくる。 *************************** まりをくわえ戻ってくると、 私に向かって首をぐっと前に押し出した。 私は泥で濡れたまりをつまむように受け取ったあと、 足元に叩きつけ泥を散らした。 **************************** 犬の額を撫でる。 忠義者、 と褒めてやった。 ***************************** いつもより荒く見える毛皮はじっとりと濡れている。 左右に振る尻尾から水の粒が飛んできて頬にぴちぱちと当たった。 私はまりをひろい着物の裾で拭う。 ****************************** 今度は床下の端まで行く。 堀に向かってまりを転げるように投げた。 まりは堀めがけて、 数多の小さなしぶきの中を細かくはぜながら飛んでいく。
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