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第2章 十四郎の帰郷
弓の弦のような雨が降る日だった。
私は家にじっとしていることができなかった。
地上はるか高くに堂々と建てられた大広間の床下に行き、
犬に熱心に芸を仕込んだ。
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まりをわざと斜めに飛ばして、
大きな水溜りに投げ入れる。
まりは無数の波紋の広がる水溜りに勢いよく飛び込んだ。
水しぶきが盛大に跳ね上がる。
しぶきは力強く降る雨と交差する。
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犬がまりめがけて駆けて行く。
犬の駆け足が四方一帯に広がる足首の深さの大海原に、
鳴門模様をつくる。
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まりをくわえ戻ってくると、
私に向かって首をぐっと前に押し出した。
私は泥で濡れたまりをつまむように受け取ったあと、
足元に叩きつけ泥を散らした。
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犬の額を撫でる。
忠義者、
と褒めてやった。
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いつもより荒く見える毛皮はじっとりと濡れている。
左右に振る尻尾から水の粒が飛んできて頬にぴちぱちと当たった。
私はまりをひろい着物の裾で拭う。
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今度は床下の端まで行く。
堀に向かってまりを転げるように投げた。
まりは堀めがけて、
数多の小さなしぶきの中を細かくはぜながら飛んでいく。
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