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目的地に着くと早速テントを張りテーブルやら椅子やらを並べ、火を起こして食事を楽しんだ。
なるほど、大自然の中で頂く料理は格別に美味しい。高級食材のせいだけではない。部屋で一人寂しく簡素な料理とビールを飲むとあれこれ考えてしまうのだが、それが無い。気が楽だ。
睡眠薬を飲まなくても寝れそうだ。そう思っていた私は念のため持って来ていた瓶を車に入れた。
夜空には満点の星空が輝いている。今日は最高の一日だ。バスローブではなくジャージ姿で背伸びをしてみる。
横眼には、買い出しの際に着用していた「上場企業のOLっぽい私服」が車の助手席に脱ぎ捨ててあるのが見えた。
今日は何とか流星群が近くを通るらしい。どうせなら、煌びやかな星に囲まれて、静かに眠りたい。ほろ酔い気分の私はワインを一気に飲み干すと車に乗り込んだ。
車の中では既に火の付いた木炭が、蓋の無い炭壺の中で静かにほんのりと輝いていた。
「消えそうだな」そう思った私は軽く息を吹きかける。すると、一瞬だけ炎は明るく光り、またほんのり輝いた。
私の吐息で、私が居るから輝いている。私の一息で、一瞬の輝きが生まれて消える。
それはどこか懐かしく、美しくも切ない光だった。やがて何度も繰り返すうちに私の息は苦しくなってきた。
「今日は、最高な一日にしたい。苦しみたくはない」
私はドアを開けて煙を逃がすと、睡眠薬の瓶を開け何錠かを呑み込んだ。そしてもう一度だけ空を見上げると車に乗り込んだ。
流れ星が1つ激しく輝いて、一瞬で消えたのが見えた。
私は最後にもう一度だけ木炭に息を吹きかけた。ほのかに明るさを増した炭火を見て、そのまま眠りについた。枕元にはちょうど、私には似合わない衣装が散らばっていた。
今日は最高な一日だったな……。私の頬には、一筋の涙が流れていた。
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