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「そう……。見てたんだ。仕方ないわね。これも、運命かしら……」
私は自分の詰めの甘さと不甲斐なさと、恥ずかしさを同時に感じていた。
「本当はボクも、お姉さんが死んだ後に死のうかと思ったんだ。でも……」と言うと、タケルは一本の木を指さした。
「あの木の枝に登ってロープを掛けようとしたらさ、流れ星が見えたんだよ。なんかすごく綺麗だった。でも、綺麗だって思った瞬間、消えちゃったんだ。しばらくしたら、また1つ、また1つって、どんどん空から出て来ては消えて行くんだ。どこに行きたいんだろう。なんで消えるんだろう。先生が言ってたんだ。流れ星は燃えて無くなるんだ、その最後の瞬間に明るく光るんだって。その一瞬が綺麗なんだって」
私は黙ってタケルの話を聞いていた。
「だからボクも、最後に輝けるって思ってたんだ。でもね、ボクには星が最後まで一生懸命、必死になって光り続けようとしているように見えたんだ。どんどん消えて行くけど、どの星も、必死にどこかを目指してた」
タケルの声は次第に涙声が混じるようになっていた。
「そうしたら、ボクも、もっと頑張らなくちゃって。ボクはまだ、全然光ってないやって思った。ボクが綺麗だと思っていたのは、きっと星がまだまだ生きようとして、必死に頑張っている姿だったんじゃないのかなって。きっと、こんな真っ暗な山の中で、誰も居ない所で死んでしまったら、一生懸命頑張ってる星に笑われちゃう。そんなもんかって、お前は そんなもんかって。星は粉々になっても最後まで光るんだ。それが痛くても、辛くても、バラバラになったって光るんだ。それなのに、ボクは、ちっぽけな傷みに我慢できずに、真っ暗な山の中で死のうとしている。そんなの、嫌だ!」
私は思わずタケルを抱きしめた。どうしていいのかわからない、どう表現して良いのかわからない感情に包まれた。
たった今死に掛けていた人間が、死ぬことを恐れた少年を抱きしめて、何を言えばいいのだろう。私には、何も言う資格はない。
そしてタケルは言った。
「お姉さんも、生きようよ。まだ死にたくないって、車の中で泣きながら寝言を言ってたよ」
私は炭壺の中で一緒に燃やした写真の男性を思い浮かべた。夜空に一瞬光った流れ星が、闇の中に消えて行った。
次から次へと星が流れていく中、ふと一際明るい輝きを放つ流れ星が目に留まった。その流れの先には白く明るく輝く星があって、流れ星はその星に重なった所で、ちょうど綺麗に消えて行った。
私も、まだまだ輝けるだろうか。一生懸命頑張れば、いつか誰かの所へ辿り着けるだろうか。
上場企業? OL? セレブ? そんな事で誰かを見返す様な事をしても輝けない。
私はもう一度少年を強く抱きしめると、ジャージのジップを上まで締めて立ち上がった。
「タケル君、ホタテは好き?余っちゃったから、一緒に食べよう」
車の向こうの炭壺の蓋を開けると、まだほのかに輝く炭を見た。
私とタケルは顔を見合わせて、「綺麗だね」と呟いた。
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