取材13日目

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取材13日目

「じゃあただの失神かな?」 「おそらく。ただ上の部屋について聞きたかったのでお呼びしました。」 遠くで声が聞こえた。 寝かされている。 そう思うと急に頭が冴えてきて、目を開いた。 「あ、起きたみたい。」 目の前には冴島幸人がいた。 「何であなたが。」 「この場所わかる人、幸人くんしかいないでしょ。」 昇がそう言って近づいてくる。 コップに入った水を差し出してきた。 受け取って飲むと少し落ち着いた。確かにそうだ。 「幸人くんは、上の場所知ってたんですか。」 昇が僕の横に座りながら聞いた。 「いや、俺もここは1回くらいしか来たことがないんだ。 どうせ店で会うからね。 ただ雄太が金城エリカちゃんを連れてこなくなったのは 監禁してたからだったんだね。腑に落ちたよ。」 幸人は僕たちが座っているのとは別の、 一人掛けのソファに腰掛けて電子タバコを吸っていた。 吐き出した白煙が天井に向かって伸びていく。 散らばったピースを繋ぎ合わせるにはあまりにも情報が多すぎて、 どこから整理したらいいかわからず口を開けては閉じてを繰り返していた。 「何かと彼女に記憶違いがあることは確実そうだね。」 幸人はすっと立ち上がって窓の方に歩いて行った。 「そういえば、上の部屋にシミがあったんです。」 昇が言った。あの部屋の中央にあったものだ。 「シミ?」 幸人は珍しく驚いた顔をした。 「はい。恐らく血だと思うんですが。」 「そっか。」 気がつくとずいぶん日が落ちた窓の外から、 真っ赤に燃えるような夕焼けが差すように部屋の中を照らしていた。 各々が自分の頭の中を整理するのに必死で長い沈黙の中、 昇が小さい声を絞り出した。 「須崎雄太は、」 「君たち2人は、もう手を引いた方がいい。」 幸人がそれに被せるように遮った。 こちらから表情は見えない。 ゆっくりと噛み締めるような言い方だった。 「本当はあの店に君たちが来たときに言うべきだったんだ。 これはもう、好奇心なんかで追い求める問題じゃない。 何の罪も犯してない君たちが、 ただの好奇心で真実を知りたがっただけで捕まるかもしれないんだ。」 「でも、」 「だから!」 初めて息を荒げた幸人の声は、強い悲しみを含んでいた。 「もうやめてくれ、お願いだから。」 こちらを向いた幸人は真剣な表情で、 当事者であることの責任を負ったような目をしていた。 きっともう、幸人は覚悟していた。 須崎雄太は、エリカに殺されたんだ。
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