取材3日目

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取材3日目

あ、また来てくれたの。実は少し気になってたんだ。 ちょっと冷たく突き放しすぎたかなって。 あの後大丈夫だった? そういえば、ニュースでインフルエンザが流行ってるって言ってた。 あなたも気をつけてね。健康が一番なんだから。 健康といえば、日本では「健康で文化的な最低限度の生活」 って言われる基準があるけど、 あれはどういう意味なのかなって最近よく考えるの。 健康ってたとえば、身体のどこにも痛みがない状態、とか、 悩みがない状態、とかあるじゃん? でもそんなことって実現可能なのかしら。 いるとしたらよほどお気楽な人生を歩んでいるのね。 メンタルが弱い人や考え込みやすい人は心の健康を損なっているし、 身体の弱さなんて人それぞれ。 私昔から身体が人より弱かったのよ。 だから風邪ひとつ引いたことありません、とか言われると無性に腹が立つ。 健康って日頃の行いの成果のように言われるけど、 元々持ってるハンデは絶対にあるのよね。 今日はその病気の話?すごく長くなるけど良いかな? 小学生の時にね、いきなり倒れたらしいのよ。 らしいって言うのは記憶がないからで、あとで母親から聞いたこと。 その時はなんて言うか、いじられることが多くて、 ある意味人気者ではあったんだろうけど、不本意とか考えることもせず、 流れに乗っていじられていた。 その時にね、私が転ぶのを面白がった子たちがいて、 よく足を引っ掛けられていたの。だから倒れたのはそのせいだと思ってた。 たまたまある日担任に見つかって、 担任の先生にはその引っ掛けられているのが見えなくて、 いきなり倒れたように見えたらしいの。 必死で説明したんだけどね、全然聞いてもらえなくて。 それをきっかけに病院にかかったら、なぜか病名を言われたのよ。 今でもどういうことかわからない。でもきっと運が良かったのね。 子供が発症する確率の高い自律神経系の病気だった。 当時はあまりそういうことに関心がなくて、頭痛やら腹痛やら、 そういうものをすぐに我慢してやりたいことを優先してた。 だからかな、悪化していくばっかりで。小学校はそのせいでよく休んだなあ。 その時も既に受験勉強をしていたから、特に困ることはなかったんだけどね。 中学校に入って人生で初めて血液検査をしたの。学校の健康診断でね。 そうしたら貧血だって言われたわ。 自律神経系の病気は投薬でなんとなく治りつつあって、 元々子供がよくかかる病気だから大人になったら自然治癒するって 言われていたのよ。 それなのに貧血って新たなカードが増えた。最悪って思ったわ。 初めて飲んだ鉄剤は超がつくほどまずくて、身体にも合わなくて。 その日のうちにほとんど吐いた。胃の中が空っぽになるくらいね。 それでお医者さんには普段の食事で改善していきましょうって言われたわ。 治るわけないのに。 だからずっと頭痛と立ちくらみで悩まされる学校生活だったな。 そうそう、その当時、いつからかな、 中学を受験するってタイミングくらいから、 効率よくカロリーが取れるからって食事が偏っていたの。 いわゆる栄養補助食品、ゼリーとかクッキーとかブドウ糖のタブレットとか。 そんなものでいつも食欲を紛らわせていた。だからすごく太っていたの。 高校くらいになると血液検査でもその方面の数値が悪くなり始める。 平均体重より重いことも自覚する。 痩せなきゃって思ってばっかりで食べることが辛くなった。 でも気づくと食べてるの。あれ恐ろしいよ本当に。 なんだろ、映画とかで、吸血鬼が血を吸ったりとかしてるんだけど、 我に帰って泣く、みたいなシーン想像できる?あんな感じよ。 食べてることに気づいて自分自身に嫌悪感を抱いて、夜にトイレで泣くの。 なんでトイレって?吐きたいけど吐けないからよ。体重は増えるばっかり。 家に帰ってから食べているから、いつも夜の九時くらいに食べて。 十一時くらいに吐こうとする。寝るのは夜中の二時。 考えてみれば、その当時から随分と夜型だったわけだ。 大学受験をする頃には肥満度の数値もしっかり肥満に入ってて、 どうすることもできなくて、日々自分のことを嫌いながら生きてた。 結構意志が弱いのよね。 誘惑に揺らぎやすいっていうか。我慢するのは昔から苦手だったの。 あなた、私の母親に会った?すごく痩せてるでしょ? あの親に毎日痩せなさいって言われながら育つのは本当に大変よ。 自己嫌悪が目に見える気体みたいなものなら 私の部屋の中は自己嫌悪の黒い空気が充満してるわ。 一酸化炭素中毒で自殺するみたいに。 今そんな太ってない? そうね、食欲をコントロールできるようになったのは、 大学生になってからかな。 勉強する義務がなくなって、 毎日自由な時間ができると意外と食事の優先順位が低いことに気づくのよ。 あと、自分が思いっきり楽しめるものができると生活も変わっていくものね。 大学生になってから10キロ以上痩せたわ。 おかげで今では結構自分の身体に満足してる。 話がずれたわね。何だったっけ?ああ、病気の話ね。 大学に入ってからは、授業に出て、 ピアノはまだやってたからピアノを練習して、 知らない男の人と寝たりして、時々包丁を愛でる。 そんな生活をしてたかな。 中高と男性経験がなかったから、そのコンプレックスを解消したくてね。 いろんな男の人に出会ってみようって、 友達に聞いたお店でナンパされる方法を試して、 話に適当に相槌を打ってると大抵お持ち帰りしてくれた。 怖い?そんなの感じたことないわ。 怖いっていう人は自分の力を過小評価しずぎなのよ。 それか、そういう自分を可愛いと思っちゃってるかのどちらかね。 私も複数人を相手にするには力で勝てないと思っているけど、 男性一人くらいなら手段を講じれば逃げることは簡単だと思うの。 人間なんて関節で繋がっているだけの脆い生き物なんだから、 構造さえきちんと把握すればどうすれば力が抜けるかなんて 見たらすぐわかるものよ。 でも次第になんか刺したいって気持ちのほうが勝っちゃって、 大体相手が寝てる間に持ってた包丁で刺して帰ることばっかりだったなあ。 それでいろんな人と寝てたら、病気もらっちゃって。 それから薬を服用してる時期もあった。 まあでも自分の性格的に意地でも経験を積みたいっていう ハングリーなところも好きだから、後悔はしてないかな。 振り返ってみると、ここに来るまでずっとなんらかの病気で通院してたのよ。 医療費もばかにならないし、健康な人っていいなあと思う。 でもこの超高齢化社会の中でいえば、 ある程度楽しく生きて早めに死ぬほうが幸せなのかもね。 人生の時系列を知りたい?ごく普通だと思うけど。 現役で大学に入って、大学は二十二歳で卒業してる。 それからは男たちと両親からもらったお金と少しのアルバイト。 高校の時に買い与えてもらったパソコンで ホームページを作るのを趣味にしてたの。 本当に少しだけどそれでお金をもらっていたから、 仕事っていうとフリーランスのウェブデザイナーとかになるのかな。 ちょっとかっこいいよね。 最初に人を刺したのは多分大学二年生の時とかで、その時には家を出てたな。 どのタイミングで一人暮らしを始めたか? 覚えてないわよ。 なんでそんなこと気になるの?
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