取材6日目

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取材6日目

夢の中で、うるさいなあとずっと思っていた。 音楽がしっかり聞こえるくらいまで頭が覚めてから、 それが着信音だと気づいて驚いて飛び起きた。 「何回電話したと思ってる、って言うか、もうお昼すぎてるけど。」 電話の相手は昨日の昇で、目の前に並んだ缶ビールの残骸を見て、 自分が思ったよりもアルコールを摂取していたことに驚きながらも パソコンを開いた。 「ごめん寝てた。何?」 「昨日の話、整理してみたんだけど気になる点は案外簡潔かもしれない。」 家に来ると言うからとりあえず缶ビールの残骸を片付け、 散らばった洋服を洗濯機につっこんだ。 タバコの匂いを消すために強力な空気清浄をかけながら、 焦って窓まで開け放していたことに気づく。 「今から家行っていい?」と言った割には 近くのコンビニくらいまで来ていたのではというほどの早さで インターホンが鳴り、昇が家に上がる頃には僕は汗だくになっていた。 「これ買って来た。食べるでしょ?」 近くのコンビニで有名な小ぶりの唐揚げを出し、 早速自分の家のように寛ぐ昇を見て急いで台所に立つ。 「あ、飲み物とか買って来たからいいよ。それより紙とペンくれない?」 電話のFAX用の紙を一枚抜き、近くにあったボールペンを渡す。 「まずさ、そもそも初めて殺人をしたのは大学2年生。 そこを基準に考えるんだよ。 ターニングポイントは何回もあるけど、 本人にとって最も記憶に残っている殺人なんだろ?」 紙を横向きに置き、真ん中に縦の線を引く。 そこに「最初の殺人」と書いた。 「ここが大学2年生。大学受験、と言うか高校卒業までの足取りはあるから、そこまでは普通の人ね。」 紙の左側4分の1くらいにまた線を引き「高校時代<優等生>」と書く。 「そして、今は25歳で刑務所。儚い人生だな。」 右側4分の1に線を引き、右側に「刑務所」と書いた。 「で、問題はこの間。最初の殺人よりも右側は仮にサイコパスエリカとしよう。とすると、この線より左の空白はなんだ?」 「普通の大学に通っていた期間?」 「・・・それが違うとしたら?」 「え?」 「だって大学の人彼女のこと知らないんだろ? だったら通ってないと思う方が自然じゃない? 一人暮らしを始めた時期とも重なるし、消息不明になるにはうってつけだ。」 「彼女が望んで消息不明になったとでも言いたいのか?」 「それはわからないよ。ただ、彼女にとっては普通に大学に通い、 大学2年生で殺人に目覚めた後、大学を卒業した。 その後フリーランスで仕事をしている。 お金は両親から一人暮らしの家に振り込まれるし、 何も不思議はなかったんだ。」 「彼女は隠していると言うよりは、 記憶の矛盾にさえ気付いてないってこと?」 「どちらかと言うと気づきようがないとも言える。」 「記憶を失って性格を変えてしまうほどの何かがあったってことか?」 「わからないけど、その可能性が高いんじゃないかって話。」 二人の間に沈黙が流れ、ふとさっき開けていた窓からセミの声がした。 もうすぐ夏だった。
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